「つーちゃん…」
「うん?」
「……ごちそうさま…したい…」
そんな風に桜は言いながらじっと目の前のテーブル、もとい、人参を見つめていた。
シチューが入っていた食器に居座るそれは、実は桜の苦手な食べ物である。
食べやすいように少し小さめにカットはしたけど、やっぱり苦手なものを避けるように食べ進めた結果、四切れ程残ってしまっていた。
「にんじんさんは?」
「にんじんさんはきらい…」
ぶすっと唇を尖らせる姿も可愛い。
いやでも、好き嫌いは極力少ない方が良いだろう。
「もうちょっと頑張ろっか」
「うー」
「一口は、パパの分」
「あい…」
今日は会社に泊まりの父の名前を出すと、渋々持っていたスプーンで人参を掬い、口に運んだ。
「もう一口は、あっちゃんの分」
「……俺?」
「蒼志お腹いっぱいだもんねー?」
「あっちゃんおなかいっぱい?」
「あー、まあ、そうだな」
「だから代わりに桜が食べてあげるんだよね?」
「……うん」
そんな目の前に座る蒼志が不思議そうにこっちを見て観察していた。
桜はあんまりわがままも言わないし、好き嫌いも少ないから、こんな光景が珍しいんだろうか。
「お兄ちゃんの分も食べてくれる?」
「うん」
ぱくん、と三切れ食べ切って、あと一切れだ。
さて、どうしようかな。
「じゃあ最後はあっちゃんに食べてもらおっか」
「は?」
「はい、あーん」
そうやって自分のスプーンで人参を掬い、蒼志に差し出せば大層困惑した顔を浮かべていた。
逆に、すぐにぱくっと食べてくれなくてよかった。
「あ、桜、あっちゃん食べれないって」
「……」
「どうしよう、お兄ちゃんももう食べれないし、…」
「……さくら、たべれるよ」
「ほんと?」
「うん、さくら、にんじんさんたべる」
「わあ、ありがとう桜、お礼に明日のおやつのホットケーキに、チョコシロップかけてあげるね」
「ちょこ!」
ごくんと食べ終え、明日のおやつを思って桜はにこにこしていた。とても可愛いです。天使?天使か。
「あ、蒼志も頑張ったからホットケーキにチョコシロップかけてあげよっか?」
台所で食器の片付けを手伝って貰ってる最中にそう言うと、眉を寄せて少し不機嫌そうに、疑問を返してきた。
「だって蒼志も人参苦手っしょ」
「………」
「あ、図星」
ふい、と目を逸らされてしまった。
こんな背はでかいのに、何だが可愛い気がして、やっぱり明日のおやつは、ふたりにホイップクリームもつけてあげようかな。
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11/23がいい兄さんの日、ということでフォロワーさんから桜の好き嫌いを克服する話、というネタを頂いたので、司に頑張って貰いました。
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