不シス 番外 | ナノ


ツイッターRTお題の、蒼志×司でお互い大学生設定。
蒼志のお兄ちゃん燈哉さん視点です。


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その日は偶々仕事が早く終わって、何となく、今年から一人暮らしを始めた弟の家に行ってみようと思った。
特に一人暮らしすることに心配はしてなかったものの、そう言えばあいつ、料理の腕が壊滅的だったなぁとか、思い出してしまって。

だからと言って俺自身が料理出来る訳じゃないけど、まあ、簡単なもの位は、とか、特に計画もなく途中のスーパーで材料を買ってやって。
うん、結構良いお兄ちゃんじゃないか。
そんなこと言っても蒼志は怪訝そうな顔するに決まってるんだけどな。


バイクを走らせ、目的のアパートに着いて、二階の角部屋に向かう。
鍵は無いから、扉を勝手に開ける訳にもいかずインターフォンを一度鳴らした。

『――はい』
「………ん?」

小さなスピーカーから聞こえてきたのは弟の声、ではなくて、違う男の声だった。

『………あの…?』
「…………ええと、ここ、津田の家であってます?」
『はい、そうですけど』

お互いに戸惑い、スピーカーの微妙なノイズが暫く耳に残る。

蒼志にこんな友達なんて、…………あ、ああ、いや、そうか、スピーカー越しだからわからなかっただけだ。
そんなの、ひとりしか居ないに決まってるじゃないか。

「司くんだ」
『あ、はい、そうです、……ええと』
「燈哉です」
『え!?ちょ、ちょっと待っててください、!』

ぶちん、とノイズが消えた途端、ばたばたと慌ただしい音が中から聞こえ、すぐに扉が勢いよく開いた。

「すみません、スピーカー越しだとわからなくて…」
「いや、俺もそうだったから大丈夫」

促されるままに部屋に入ると、一人暮らしらしい狭さの、だけど随分綺麗に片付いた空間があった。
部屋の中は玉ねぎ(多分)の良い匂いが広がっていて、腹がぐるる、とわざとらしく音を上げてしまった。

「あ、蒼志は?」
「バイトです、今日は昼からだったらしいんで、そろそろ帰るとは思うんですけど」

何だ、バイトなんてしてるのか。…当たり前だけど、すっかりそのことについては抜け落ちてた。

「司くんが居なかったら無駄足になってたなぁ」
「蒼志も燈哉さんが来るって教えてくらたら良かったんですけど…」
「良いの良いの、俺が突然押しかけただけだから」

この様子だと、司くんも頻繁に来てる様だし、この材料達は俺が使うより司くんに使って貰った方が良いだろう。

「これお土産ね」
「……良い肉ですね、これ」
「美味しいもんが俺に作れる訳ないからね、材料だけでもと思って」
「じゃあこれでもう一品作ってきます」

ゆっくりしてください、とお茶を出してくれて、彼はまた、玄関からこの部屋に続く廊下にあった台所へと戻って行った。

ベッドと小さい机と、壁に埋め込まれたクローゼット、あとパソコンがおいてあるスペース、本棚。
本棚の中には小難しい本が並び、俺には何ひとつ理解出来ないものだろう。
高校の時より随分、……大人になったんだなぁ。

部屋を漁るという不躾なことは兄弟であっても流石に憚られ、ぼーっと部屋の端から端を何度も繰り返し眺めていると、ただいま、と低い声が扉越しから聞こえてきた。


ただいま。
おかえり。
誰か居んのか。
燈哉さんが。
兄貴?
うん、もうすぐ出来るから、待ってて。
ああ。


何これ。お兄ちゃん、結構びっくりだ。あの蒼志が。

がちゃりと開いた扉の先には、黒髪の精悍な顔立ちの男が立っていた。

「おかえり」
「来るなら連絡くらい入れろよ」
「仕事がはやく終わったからさ」
「そうかよ」

いつの間に、こんなに成長したんだろう。
一年会ってない訳でもないし、ついこの間会ったばっかりなのに、この弟は、こんな顔をしていただろうか?

「飯、食ってくんだろ」
「司くんも居るし、お前の顔見たから帰ろうと思ってた」
「兄貴の分、あいつ作ってるけど」
「ええ…じゃあ頂いていこっかな」

実家にいる時だってしていた会話も、こんなだったっけ。どうだったろう。
緊張とは違うけど、どこか浮ついた感じがした。

「上手く続いてんだね」
「はあ?」
「司くんと」
「……まあ、そりゃあな」

蒼志は荷物を降ろしベッドの方に座ると、その体勢のままローテーブルの上に銀色の灰皿を置く。

「吸うだろ」
「吸ってんの?」
「たまに」

その割には部屋の壁は白いままで、臭いもしない。きっと部屋の中では滅多に吸わないんだろう。

「悪いからいいよ」
「陸とか他の奴も吸ってる」
「お兄ちゃんは我慢します」

高校の時の友達も相変わらずのようで、安心した。
荒れてた蒼志のままだったら、きっとこんな風に、今は顔を合わせていなかったかもしれない。

「今日来れてよかったわ」

多分、彼らはこのまま、このままなんだろう。
それが嬉しくて、でも少し寂しくて、やっぱり嬉しくて。

司くんが運んでくれた、料理が盛られた大皿を前に、俺は笑って話すことが出来た。



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このお兄ちゃんももうアラフォーに差し掛かって、そろそろ結婚します。
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