▽お父さんが12.彼と彼のあの発言に至るまでの話
それを確信したのは、司が彼を見る目だった。
いつもとどこか違う、彼を見る目。
まさか、そうなってしまうとは思わなかった。
親として、どんな反応をしたらいいのか、わからなかった。
男同士ということを否定するつもりはないけれど、まさか、自分の子供がそうなってしまうとは。
「どうしたらいいのかなぁ…」
妻の遺影が飾ってある前で呟けば、後ろで娘が寝返りを打つ。
やめておきなさい、と。
自分は言えるだろうか。
至って普通の、と言い方は失礼かもしれないけど、自分は女性を、亡くなった妻を愛したことしかなくて、良いアドバイスのようなものをしてあげられる自信もない。
こんな時、彼女が生きていたら。
「……あぁ、そうだ」
ふと、思い出した。
桜が生まれる前、彼女が言っていたことを。
彼女が養護教員として勤めていた学校でのことを。
(それであの子たちが幸せなら、私が口を挟むことなんて、何もないわ)
定期的に、送られてきた年賀状。
彼女が亡くなった今も送られてくる、書き連ねたふたつの名前。
それはふたつとも、男性の名前だった。
葬儀の時に、彼らだって、泣いてくれた。
(先生に認めて貰えて、俺たちは、やっと進めたんです)
他人の子たちだからじゃない。
その時、僕は、確かに頷けたんだ。
「幸せになってほしいって、思うのは、」
当然のことだ。
その幸せは、僕だけのものじゃない。
彼らが幸せなら。
辛いこともあるだろう。
もしかしたら、最悪の選択のひとつかもしれない。
でも。
そうやって、彼らが求めるなら。
「僕が止める権利はないよね」
そっと、寝ている桜の頭を撫でる。
お兄ちゃんが笑ってる方が、桜もきっと、喜ぶだろう。
「好きに生きなさい」
僕は、応援してあげるから。
辛かったら、慰めてあげるから。
泣きたくなったら、泣いてもいいから。
「これでいいんだよね、真弓」
心に刻む(子供は、知らないうちに)
(大きくなって、しまうんだね)
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実はとあるお話と微妙にリンクしております。
「真弓」はお母さんの名前でした。
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