「……葛城会長」
葛城 文弥。
矢代と同じ学年。高校三年生。
去年、今の俺と同じ役職だった男。
「バーカ、会長はお前だろ」
つまり、前生徒会長である。
「ま、もう一回会長やってやってもいいけど?」
「やめろ、あんたの所為で今年は大変だったんだよ」
「生意気な口効くようになったなぁ、圭登」
このひとが残していった仕事の所為で、今年の初めの方は大変だった。
その上転入生だとかで余計こじれ、……まあ色々とあった訳だ。
会長、……葛城さんが俺に手を伸ばし、頭を撫でてこようとする。
いや、撫でるだけでは飽き足らず、きっと他にも何かしらしてくるだろう。
俺が一歩後ずされば、葛城さんも一歩俺に近づく。
延々ループになるような気がして、それ以上後ろに下がることはやめた。
「去年より少し伸びたな、背」
頬に伸びる手。覗き込むように俺を見る、真っ黒な瞳。
そう大して身長は変わらない。変わらなくなった。
元々このひとは誰とでも距離が近かったけど。
今みたいに、誤解されるような距離は当たり前だった。
「で、誰に喰われた、お前」
唇が重なりそうな距離で、俺だけに聞こえるくらいの低い声で、葛城さんが言う。
喰われた。
……喰われたって、つまり、そう、いう……。
何で知ってんだこいつ……ッ!
「ッ何で、あんた……!」
「エロいから」
「…………あ?」
いつの間にか俺の腰に回っていた葛城さんの手が、わざとらしく、いやらしく、ねっとりと撫でてくる。
しかもしょうもない理由を述べながら。
何だそれ。馬鹿か?こいつ馬鹿か。知ってたな、そういえばこのひとは馬鹿だった。
「昔っからエロかったけどよ」
「……」
「いやー、是非俺の上でもこのエロ腰振って貰いてーなって」
「……」
「あ、騎乗位の方な?」
「……うるせぇ黙れクソが」
「先輩に対して口悪ぃなーお前」
相変わらず腰を撫でながら顔を更にこちらに近づけて、まあキスしてこようとする葛城さんの顔面を、どうにか手のひらで押しやる。
が、思いの外力が強く、中々離れられない。
「近ぇんだよ……っ!」
「この後一発どうよ、コスプレしたままってのも燃えるだろ?」
「燃えねぇよふざけんな!」
話の内容は、他には聞こえていないだろう。
だからと言って、流石にこれだけ密着していれば、そりゃ人は集まってくる訳で。
……せめてここに来るのがあいつじゃなくて仙崎あたりでありますように。
← top