道を歩いていただけだ。
なのに。
「ぴきい?」
何だ、この生き物。
スライムさんと青年くんのお話青い空に白い雲、まるで絵画みたいな緑の草原を、自分の町から隣町へ買い物に行こうと歩いていたときのこと。
気付いたら妙に左足が重くて、何だと思ってみたら、ぷるんとした、わけのわからないゼリーのようなプリンのような変な物体が絡み付いていた。
「うわ!?」
気持ち悪い、つーか何だこれ!?
パニックになりかけた俺は、慌てて脚を振って近くの岩場に叩きつけた。
すると、べちん、と良い音と、ぷきゅう、と小さい声?がして。
……え、生き物?
投げつけたのが自分である手前駆け寄るのも憚られたが、もし生き物だった場合何だか申し訳ないので、都合よく落ちていた木の枝を引っつかんで恐る恐る、それを突いてみる。
「ぷ、…ぷきゅ……」
「……生きてる?」
「ぴき、」
「ああ、生き物なんだな、お前……」
潰れていた形態から、固形物っぽい形態になったそれは、まあ何ていうか……何だろうな。
可愛くもなければ、気持ち悪くもなく、かと言って形容出来るものでもなく。
何なんだろう。
生き物は確定したとして、今まで見たことも聞いたこともない。
首を傾げて、しゃがみながら突いていると、それはぴょんぴょんと跳ねて俺の顔面にアタックしてきた。痛い。
そのまま窒息しそうになるくらい俺の顔面に張り付いたから、物体を掴むとぐにっとした感触を伴った。
「何なのお前」
「ぴきい!」
「いやわかんねーし」
「ぷき、ぴきぃー」
どことなく不満そうだった。
地面に下ろすとちょっとだけ満足そうだった。
「じゃーな」
「ぴき?」
もしかしたらこれを売り飛ばす、とかしたらそこそこな値段になるのかもしれない。
でもそれも可哀想だし。
変な奴に捕まるなよ、という意味をこめて、それを背にして歩き出した。
そんなのが、俺と、それの、たった一回の出会い。
とか、かっこつけてみたり。
「ぴきいいいいいいッ!!!」
「いってぇええ!!」
何だ。今、何が起こった。
背中に物凄い衝撃を受けて地面に顔面から倒れこんで悶える俺、超絶かっこ悪い。
「ぴきい!ぷき、ぷききっ!」
「いってぇな何すんだよ!」
「ぷきいっ!!」
「うぷ、っ、は、だから顔面はやめろ、死ぬ!」
「ぷうううううっ」
「んでそんな怒ってんだよ!!」
おい、さっきお別れしたばっかりだろ。
あれで話は終わるはずだろ。
「はーなーれーろー」
「ぴゅーうーうー」
脚に絡みついてみたり、腕に縋ってみたり、お前は彼女か。
いくら剥がしても剥がしても、絶対にくっついてくる。
あー、もう。
「…くそ、好きにしろ」
「ぴきいっ!」
嬉しそうにしやがって。
そもそも何でこんな俺に懐いたんだ。
「いいか、顔面にだけは引っ付くなよ」
「ぷききっ」
「……わかってんのかなぁ」
ぴき、ぴき、と謎の声を上げて、歩く俺の隣を飛び跳ねた。
仕方ない、これも何かの縁だと諦めるしかないか。
可愛くないわけでもない様な気もしてきたし。
「ぴきいいっ!」
「っぶ、てめ、だから顔面はやめろっつっただろ!!」
まあ、……少し早まった感も否めなくはないが。
仕方ないことなんだろうと、思うことにしよう。
で、……何なんだ、この生き物は。
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スライムBL企画様に参加させて頂きました。
『
林檎』
2012.09.28 提出 あさかわ
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