近いうちに、あなたはリコールされます。
そう、聞いたとき、頭の中が白く、目の前が暗く、渦巻いた。
告げられた言葉がぐるぐると、脳内を巡り、わからないうちに辿っていた自室のベッドに倒れ込んで、天井を見上げる。
リコール。
転入生が来てから、仕事をしなくなった役員達の仕事までして。
それが、この結果か、それが、この様か。
こんなの、…こんなのは、まるで。
「ジェスター、クラウン、ジョーカー、ピエロ、道化だね!」
突然現れた声、姿に、飛び起きた。
誰だ、何の声だ、何でここにいる?
役員のやつか、転入生か、でもこんな奴じゃない。
一般生徒か。
…いや違う、だって見た目が、――見た目は?
どういう、こと、だ。
わからない、見えているのに、見えていない。
男か女か子供か大人か。
何もわからない。
いるのに、この場に、何故。
見えているのに。
(ふわふわと)
動いているのに。
(ふらふらと)
わからない、何も、誰だ。
警告のようにがんがんと打ちつけられる血液。
「何、だ、てめぇは、」
「やあ、こんにちは、はじめまして、さようなら、また会ったね?」
一礼する姿は、おどけた姿は、まるで、ジェスタークラウンジョーカーピエロ、道化。
「何なんだよお前は!」
「さあねー?」
俺の周りを跳ねる、ベッドを、床を、壁を、にやにやと、にこにこと、転がる。
男のように笑い、女のように言い、子供のように笑い、大人のように言う。
「泣いてた?」
「は?」
「辛い?」
「おい、」
「苦しい怖い逃げたい?」
「!」
ぐっと近付いた顔は、微笑とも嘲笑ともつかない表情を浮かべて、俺の頬を冷たい、温かい手で包んだ。
「だめだよ」
「何、が」
「まだ、だめだ」
眼球を舌が這って、驚いて、突き飛ばす。
離れた相手は、口端を裂けるほど上げて、手を、広げた。
「あははははははははは!はは、ははははははははッ!」
「……、」
奇声、嬌声。
恐ろしくなって逃げようとドアまで走ろうとすれば頭を掴まれ髪を引っ張られベッドへと投げつけられる。
「だめだ、許さない」
瞳孔の開いた唇が、優しく呟く。
「教えてあげる」
可愛らしく、艶美に、噛み付く。
「君は僕でー」
視界が、明るんで、ああ、嗚呼。
「お前は、俺だ」
俺が、居た。
「はは、なあ、いい加減気付いてただろ?」
俺と同じ指が、俺の首を絞める。
「道化は、お前だ」
苦しい、苦しくない、じわじわと、積められていく。
「俺だよ、なあ、道化?」
「違う、そんな、」
俺は、違う、違うはずだ。
「何が違う?お前が居なくても、物語は進む、なのに、お前が面白おかしくしてる」
「違う…!」
「途中から気付いてたんだろ?僕に、自分に気付いてたんだ。ひとから立場を奪われた。その瞬間に。わあ、凄く可哀想だ。でも考えた。言い訳をね。そうだ、自分は、ただ周りが言うから今の立場にあって、周りに仕立て上げられているだけで、そんな器じゃなかったと。思い込んだ。仕方ないことだって。でもね、違う、違うよ、君はもっともっと大きな存在なんだ!ほら、考えても見ろよ。お前は、ずーっと舞台の真ん中にいる。ずっとね。これから先ずっと。でも、知ってたかい?舞台の上にいる以上、観客では、皆ではありえねぇ。舞台の人間なのさ!ふふ、悲しいね?だって君はひとりぼっちの笑われものだ。でも大丈夫、笑われるのが俺らなんだから。ちゃんとしたお仕事だ。ふふ、笑ってもらったら大成功!はらしょーぶらぼーわんだほー!舞台は綺麗に幕を引くことが出来る。あ、そろそろそんな時間かな?よかった、まだ間に合うよ!お前は気付けたんだ。よかったよかった!ね?手を繋ごう、俺と踊ろう」
指先が、唇を、霞め。
「さあ、終演だ」
自分と。同じ。
唇が。
重なる。
「一緒になろうぜ、道化」
にやりと笑った鏡は、そう、言った。
end.
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生徒会長受けアンソロ企画様に参加させていただきました。
『
林檎』
2012.8.26提出 あさかわ
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