side 祐貴
「はあ?」
「病院送りとまでは行きませんでしたけど、そこそこ重傷らしいっすよ」
「何やってんだ、あいつ…」
「今連絡してきた生徒から事情聞いてますが、そっちも口を割ろうとはしません」
「……そうか」
「とりあえずそっちは任せました」
「ああ」
副委員長の仙崎はそういうと一枚の紙を俺に渡し、さっさと聴取の方へ戻っていった。
怪我人の欄に連なっているのは、問題児とされる連中の名前。
加害者とされる欄には、生徒会長、板垣圭登の名前が記されていた。
「で?何があった」
「……」
通称、説教部屋。
そこには板垣がソファーに座っているだけで、他に人は誰もいない。
委員達も会長であるこいつに考慮したんだろう。
「確かに相手方は問題児ばっかりだが、お前が理由を言わない限り、一方的な暴力になる」
「それでいい」
「はあ?」
「一方的な暴力で構わない」
他に話すことはない、とでも言いたげに、板垣は意地の悪そうな、それこそ悪役になりたがっているように、笑みを浮かべた。
何が構わない、だ。
「…お前は良いかもしれねぇけど、こっちはそう言う訳にいかない」
「加害者が良いって言ってるんだ」
「仮にも生徒会長だ、お前は」
「だから何だ、結局は一生徒だろ」
「周りに示しがつかなくなる」
「知ったことか」
「何があった」
「うるせぇ」
「答えろ」
「いい加減にしろ!」
「いい加減にするのはお前の方だ!」
ヒートアップする言い合いに、どちらも折れることは出来ず、均衡した睨みあいが続く。
別に誰かを思ってだとか、そういうんじゃない、これは自分の仕事で、全うしなければならない職務。
それを板垣もわかっているんだろう、何せ全校生徒をまとめる立場にいる人間だ。
深くソファーに座り直すと、聞き取りやすい、低い声がこちらに届いた。
「…襲われたんだよ」
眉を寄せ、それは心底嫌そうに、憎むように、俺を睨み付け、そう吐き捨てた。
「ひとりの生徒が、複数人に囲われていた、風紀を呼ぶより俺が直接話をつけた方が早かったから、お前らは呼ばなかった」
「それで」
「そうしたら、襲われた」
「……」
「いくら俺でも、犯せば自分達のことは黙ってるだろ、ってな」
「……」
「先に、さっきの生徒は逃がして、それから奴らが意識飛ばすまで殴った、それだけだ」
一方的な暴力。
間違いは、確かになかった。
「停学退学生徒会役員権利剥奪、何でも好きにしろ、罰は受ける」
でもそれは肉体的なものだけであって。
精神的な部分では、そう変わらないだろう。
「ただし、何があっても絶対に謝らないし許すつもりもない」
もう話し終わった、と言った様子で立ち上がり、板垣は扉の方へ歩いて行く。
「それと」
そうしてこちらを振り向いて、嫌味たらしく、笑って、何かを俺に投げつけた。
「…誰かに話したら、お前でも殺す」
慌ててキャッチするとそれは、あいつが持つ生徒手帳で。
「話す訳、ねぇだろ」
風紀委員長とか、そういう前に。
誰が好んで、想ってる相手のことを言い触らすか。
「ったく、」
完全には言い逃れ出来ないだろう。
ただ適当な理由をつけて、過剰防衛には出来る。
何より、あいつが喋ろうとしなかったのは、自分だけじゃない。
連絡してきた、あの生徒については言及させないため。
「………不器用なやつ」
調書を適当に書き上げて、俺も席を立った。
*********
付き合う前さり気無く甘い雰囲気の祐貴、というリクでした。
リク…どこいったんだろう…?
大分遅くなりましたが、お誕生日プレゼント、です。
受け取ってくださったら、うれしいです……。
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