「……かいちょう、」
少しだけ落ち込んだ様子の男が、俺の服の裾を引っ張った。
正直、鬱陶しい。
二人きりの、生徒会室。
他の役員たちは丁度出払っていて、暫くは帰ってこないだろう。
目の前にいる男の名前は、知らない。顔は整っているし、図体もデカいから、人気はあるだろうな。
それに今風紀の書類を渡されたから、きっと風紀委員の――ああもう、考えるのが面倒だ、どうだっていいか、そんなこと。
「……会長、俺、」
「何だ」
「………俺、その、この間、会長が、」
男が言った。
俺が、誰かに、抱かれたところを、見てしまった、と。
申し訳なさそうに、俺の裾を掴む手に力が入った。
眉を垂れさせて、精悍そうな顔が台無しだ。
俺は、薄らと微笑んで、俺を留める指を、外した。
「――それで?」
「…え?」
「だから、何だって言うんだ?」
後ろを向いて、少し、ほんの少し、俯いた。
「……穢れてるって?」
「ちが、」
息を、ゆっくり、吐いて。
「そう思いたければ、思えばいい」
「会長、」
震えそうな声を、隠すように。
「俺が、どんな思いでああなったか、知らない癖に」
突き放すようにそう言う。
拳を握りしめて。
「ッ会長!」
すると、叫ぶような声と共に、腕が俺の身体を捕えた。
ぎゅうぎゅうと、潰しかねない勢いで俺を抱きしめる。
「会長、…っ会長、俺、そんなつもりなくて、」
「……」
「ただ、俺は、…おれは、」
「………」
「会長が、もし誰かと付き合ってたら、って、思って、」
つらつらと言い訳のようなものを男は俺の耳元で並べた。
――ぞくりと、する。
案外、腰に響く声だった。
それに俺を絡める腕だって筋肉もついているし、…この図体なら、アレもデカいだろうし。
簡単だった。
さもそのように、可哀想な生徒会長を演じれば、俺を盲目的に慕ってくるやつは、騙されてくれる。
付き合う、なんてそんな勿体の無いことはしない。
気に入った身体とは何度だって、セックスしたいものだから。
「なあ」
閉じ込められたままの身体を反転させて、泣きそうな男の首に腕を回した。
「……会長?」
「だったら、慰めろよ」
知ってたんだよ。
顔を合わせた時から。
お前が、俺を、そういう目で見てること。
そして、お前が、俺の『お願い』を、断れないことも。
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