side 会長
殴られたから、殴り返した。
蹴ったから、蹴られた。
そんな感じで、俺たちの喧嘩は、多分他人よりバイオレンスだ。
「その澄ました顔がムカつくんだよ!」
「は、てめぇには言われたくねぇな!」
取っ組み合いの喧嘩はいつものことで、大体、些細な理由で始まる。
書類の提出期限がぎりぎりだった、それはそっちの原因だ、それからお互いの悪口になって、どちらかが手を出して、…そんなことの繰り返しだ。
「ちょっと、委員長、やめてくださいって!」
「会長も!何やってるんですか!」
そして、生徒会と風紀の奴らが俺らを止めるのもいつものこと。
身体を引き離されて相手を見ると、少しだけ冷静になる。
ずきりと口の端の方が痛んで舌先で舐めると、血の味がした。
目の前の男は頬が腫れていて、あの様子じゃ口の中を切ったようだ。
「ああもう…二人ともさっさと手当してきなさい!」
落ち着いたのがわかったのだろう。
まるで生徒会室から追い出すように背中を押された。
保健室に行けってことか。
これしきの怪我で?
……馬鹿馬鹿しい。
折角だし、サボるに限る。
奴から離れ、保健室とは違う方向に歩き出そうとしたところで、奴に腕を掴まれた。
「……おい」
「行くぞ」
ぐい、と引かれそのまま仕方なく、というか逃げることも面倒になった俺は、大人しく保健室へと向かうことにした。
「……いねぇな」
保健室には誰も、保険医すらいない。
職員会議か何かだろうか。
「そこ座ってろ」
「あ?」
「消毒」
口端の怪我を指しているのか、目を向けられて、すぐに奴は勝手にがさがさと棚を漁り出した。
することもないし、背もたれもない、回転するローラーのついたちゃちな椅子に座ることにする。
「こっち向け」
「へーへー」
向かいにある椅子に奴も腰を下ろして、消毒液を浸したコットンを、口元に。
瞬間にびりりとした痛みが走って、思わず背筋を反らした。
「ッ、てぇな!」
「当たり前だろ、消毒してんだから」
「しなくていい」
「いいから逃げんな」
腰に腕を回されて引き寄せられ、とんとんと口端をコットンで柔く叩かれる度、痛みが消えずに後を引く。
「ガーゼ、するか?」
「……いらねぇ」
漸く終わったのか、それとも俺が痛がる姿に満足したのか、腰の腕を解かれて、距離がまた開いた。
何だかどっと疲れた気がする。
「戻るか」
「………待った」
「何だ」
「お前の、まだ終わってねぇだろ」
腫れた頬を冷やす。
だとか、そんな真面目なこと、俺がするわけもなく、お固く結ばれているネクタイを引っ張って、強引に唇を重ねた。
腫れている側の頬を舌で探ると、若干切れたような傷があって、仕返しにそこばかり舌先で突く。
時折跳ねる身体が面白い。
ただ、いつまでもそうさせてくれることもなく、しばらくすれば奴の舌が、逆に俺の舌に絡み付いてくる。
鉄の味はもうしなかったけど、消毒液の味が広がって、それからすぐに消えた。
「……都合、良かったな」
「何が」
「誰も、いなくて」
「…まあ、な」
俺たちの喧嘩は、殴る蹴る、他人より大分暴力的。
日常茶飯事な、出来事。
だから、…こういう、ことだって、偶にある訳で。
「あー、痛ぇ」
「お互い様だ」
これだけは、誰にも知られなくて、いいことだ。
end.
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大変遅くなりました!!!
本当にごめんなさい、受け取っていただけたら嬉しいです…!
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