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私、あの人が好きで。

涙を流してそう告げた彼女に、俺は話を聞くことしか出来なかった。

でもあの人には、彼女がいるんだって。

それなら、敵わないよね、と零して、俺は何かを返すことは出来なかった。


彼女の好きなひとは俺の好きなひとで、そのひとには彼女なんていなくて、いるのは男の恋人だけ。
言えるわけない。
自分がどうとか、そういうことより、あいつと、目の前の彼女のために。

「応援、してくれる?」

強制された訳じゃない。
頷かないといけない訳じゃない。

だから俺は。


どう、返したんだっけ。



***



インターホンを、鳴らす。
今日は行く、って言ってなかったから、もしかしたらいないのかもしれない。
でもぱたぱたと中から音が聞こえて、玄関が開いた。

「どうした?」

立ちすくむ俺に、手がすっと伸びて、手を引かれて部屋の中に入れられる。
持っていたカバンを床に落として、そのまま、相手に抱き着いた。

「どうしたの」

勢いに負けて尻餅をついても、俺を心配する声が響く。

ごめん、ごめんとしか、言葉を言えなかった。

ごめんなさい。
何に対する謝罪か、自分でもわからない。

「いいんだよ」
「……ごめん、」
「お前が、謝る必要なんてないよ」

優しく、頭を撫でられて、これが本当はあの子を慰めるためのものだったのかもしれないと思って、余計に吐きそうになる。


「すきなんだ」


好きで、仕方ないんだ。
別れられない。
別れても、別れなくても辛い。
だったら、辛くても一緒に居たい。


あの女の子には、頷きも、拒みも、しなかった。
俺は、ずるいから、笑うことしかできなかった。


耳元で返された俺と同じ言葉。

ごめんなさい、これは、君に、あげられない。



一層強く抱きしめれば、同じだけ返ってきて、ひどく、安心した。



end.


**********
豊さんに大変遅ればせながら誕生日プレゼントでございます…。
男前受けの切甘、のリクで……おっとこれ何か違う気がする。
本当に申し訳ないですごめんなさい、時間かかっちゃいますが、書き直しもしますので気に入らなければおっしゃってください!
お誕生日おめでとうございました!

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