▽2016.05.04生徒会プチオンリーに出した無配
お互い滅多にテレビなんて見ないのに、何故だか見たい番組の時間が重なって、そこから馬鹿みたいに些細なことで喧嘩になった。譲れ、譲らない、途方もない堂々巡りの言葉を繰り返す。
そうしたら何故だか脈絡もなく、互いのどこそこが気に喰わない、あれこれに腹が立つ、そんなことを言い合うようになってしまって、気付いたらそのふたつの番組は終わっていた。
煮え切らない感情のままふたりしてそっぽを向く。何の音もない、正確には呼吸と少し身体を動かした時に服の布が擦れた音しか聞こえない空間で、どの位経っただろうか。
ソファーの端と端。喧嘩していると言うにはあまりにもくだらないから、寝室に行ったりどこかに逃げるのも癪で。
だからまあ、距離もそんなものだ。
余所を見たまま足でげしりと祐貴の太腿あたりを蹴る。
すると、祐貴も負けじと俺の膝あたりを蹴ってきた。お返しにもう一度また蹴り、蹴り返され、今度はついでにあっちから肩を軽く殴られたので、何だと振り返れば、祐貴はつんと反対を向いて知らん顔。こっちも肩を殴って、すぐに反対を向く。
次は髪の一房を引っ張られた。
流石にそれは地味に痛かったから、即座に振り返って睨む。
つもりだったが、自分が思っていたよりうんと近くに祐貴の顔が近くにあって、少しだけ驚いた。だからと言ってそれを顔に出したくなくて、極力平然を装ってぎろりと睨み続けた。
「痛ぇ」
「うっせー」
「ッ、お前、馬鹿か、やめろ」
仕返しする前に髪をぐしゃぐしゃとされ、頭も同時に揺れてぐらぐらする。腕を掴んで抵抗しても体重を掛けられてそのまま倒されればそんなのも意味がなかった。
「……謝んねぇからな」
「……俺も謝るつもりはない」
「そうかよ」
「そうだ」
頭を引き寄せて唇を重ねれば、そんな喧嘩もどっかに行って微塵もなくなって、結局、いつも通りに戻る。
「晩飯何にするかな」
「刺身」
「買ってねぇからまた今度な」
「ん」
まったく、本当に馬鹿みたいな喧嘩だった。くだらないことで始まった喧嘩は、呆気なく終わってしまう。
もう少し喧嘩を続けていたらどうなっただろう。
きっと、一時間や二時間長引いたところで、気付けばいつも通りになっている。多分。それ程くだらない喧嘩だった訳だ。
「明日はから揚げが良い」
「揚げ物面倒だから時間ある時な」
「祐貴」
「……」
「……」
「……わかったよ、ったく、お前段々我儘になってくな」
俺の言葉に祐貴は呆れたように笑い、また髪をぐしゃぐしゃと撫でてきた。でもそれは先程より大分弱い力で、頭がぐらつくことはなかった。
自分が我儘だと言うなら、それを助長させる祐貴が悪い。こうさせた祐貴が悪い。許してくれるから、言いたくなってしまう。だから、全部、こいつが悪い。
「圭登」
顔が近付いてきて、かぷんと頬を噛まれる。むっと眉を寄せたら、その眉間にも口付けられた。
「けーいと」
「……飯食いたい」
「じゃあその後な」
「……」
何となく言いたいことがわかってしまった。
嫌だと言っても、結局は流されるような気がして、口から勝手に溜息が漏れる。
くだらなすぎる喧嘩の仲直り方法としては、まあ、定石なのかもしれない。
(2016.05.05〜07.31)
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