ごっちゃ煮 | ナノ


 昨日が終わったから、多分、もう、今日、だ。日付は何時間か前に変わっただろう。あと何時間かしたら、日が昇るだろう。時計を見ていないから何時かはわからない。でもベッドに入ってから、何時間か経った。

「……」

 唐突に目が覚めた圭登は、唐突に飢えを感じた。腹が減ったとはどこか違う。同じだけれど、何か違う。ごろりと寝返りをうつと、とある男の頭が見えた。白い首筋。ぐるぐると腹の奥底が唸る。シーツを少し蹴って、男に近付く。その白い首筋に鼻を寄せるとシャンプーだかボディーソープの香り。自分と同じ匂いだ。自分では、それを感じないけれど。

「……」

 飢えている。ぐるぐる、腹の底が、凶暴な声を上げている。その飢えを満たそうと、圭登はその白い首筋に、がぶり、歯を立てた。

「ッ……!」

 びくん、と男の身体が跳ねた。男が振り向く前に、今度は少し、淡く噛み付く。逃げられたら堪らない。飢えを満たすためには、そうしなければいけないと思った。だから男の身体を抱き込み、身体を寄せ、あぐあぐと首を噛み続ける。

「……、何だよ、急に」
「……はら、へった」
「……寝ぼけてんだろ、お前」

 もしかしたらそうなのかもしれない。しかし、これがどうしても美味そうに見えたのだ。腹などすいていないのに、どうも圭登にはそれ以外の言葉が頭の中に浮かんでこなかった。男は大きく溜息をついて、男の身体に回る圭登の腕に掴む。そしてそれを持ち上げ、口元に持っていき、仕返しのように圭登の指先を齧った。

「眠ィんだけど」
「……俺もねむい」
「でも腹減ってんだろ」

 返事の代わりに、また首筋を強めにひと噛み。男もまた溜息をつき、ぐるり、身体を圭登の方に向けた。それから圭登の顔を見て、驚いたように目を見開き、すぐに細め、眉を寄せ、今度は更に深く息を吐き出す。

「……何つー顔してんだ」
「……あ?」
「あーあー、もういい、わかったわかった。腹減ったって、そっちの腹減った、な」

 何かをわかられたらしい。自分ではこの飢えを正確に形容出来ないが、男には、祐貴には、全てわかったらしい。

「あーん」
「……?」

 祐貴が口をぱかりと開く。不思議に思いながら、真似するように圭登が口を開くと、顔が近付き、ぬるりと舌が咥内に入り込んできた。腹が減ったと言われたからって、まさかこの舌を喰えと言う訳じゃないことくらいはわかっていた。しかしまだはっきりとしない脳内では、それ以上のことにまでは考えが至らない。
 彼がそうしているから、そうしている。くちゅくちゅと舌が絡み、甘噛みされ、吸われ。脳味噌が溶けていきそうだ。ぼうっとする。ふわふわしていた頭の中が、更に、どろどろになっていく。

「ん……ッ」

 圭登の背に回っていた彼の腕が、するすると腰のあたりを撫でた。そのまま寝間着代わりにしているスウェットのズボンと、ボクサーパンツのウエスト部分から、彼の指先が忍び込んでくる。

「っ、ん、……」

 深い口付け。普段はこうではないのに、翻弄されている気がした。その間にも彼の手は臀部を滑り、双丘の一方をぎゅっと掴まれる。ひく、と喉が引き攣った。

「……」
「……」

 唇が離れる。ゆっくり目を開ける。そこで初めて自分が目を閉じていたことを圭登は知った。彼の瞳がどこからか入り込んだ光によって妖しく煌めいていて。その瞳の中に自分はいるのだろうけれど、そこまでは、見ることが出来なかった。

「んー……」

 祐貴が少し身体を起こして、ベッドサイドのあたりを漁る。すぐそばに置いてあった、ローションの入ったボトル。何でこんなに用意周到なのか。それは、まあ。よく、そう言ったことをするからで。高校生の、思春期の性欲は、結構なものである。自分が受け身に回ることを圭登はいつも良く思っていたなかったし、それでも毎回流されてしまう自分に腹立つことも多かったし、いつか絶対喰ってやると常に思っていた。ああそうだ、さっき。寝ている間に、喰ってしまえば良かった。腹が減った、は。恐らく、こういう意味だった。自分で言ったことなのに、圭登はやっと、この時になって、その意味がわかった。

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