「藤井ー、次教室どこ?」
「生物室じゃなかったっけか」
「実験だっけ?」
「多分」
赤い糸を切ったからといって、全てが変わる訳じゃない。
今日も俺は丹澤と一緒に居て、切る前と変わらない生活を送っている。
変わったことは、ずっと友達でいられる安心感を得たこと。
…それと、気付いてしまったこと。
しがらみも何もない、普通の恋愛が出来る、それなのに。
もう手に入らないと、叶うことが適わないと、そう思った瞬間に、きっと決壊した。
俺が、女だったら。
あいつが、女だったら。
そうしたら、全部、こんな思いをしなくてすんだのかもしれない。
「藤井?」
「え?」
「いや、ぼーっとしてたから」
熱でもあんの?
言いながら額に伸ばされた手を、振り払うことも受け入れることも。
出来ずに、そのまま立ち尽くした。
「保健室行くか?」
「あー…大丈夫」
首を横に振って、切り替え、丹澤の手を掴んで、そっと離す。
千切れた糸が、そこにある。
もう、繋がらない。
「具合悪くなったら言えよー」
「サンキュ」
変わらない、変わらない。
思い込んで、何度だってこれから、そう思い込むんだろうか。
気持ち悪い。
こんな気持ちを、知られたくない。
「…なあ、やっぱ保健室行けって」
「……そう、する」
口元を抑えて、吐きそうになりながら、支えようとしてくれる手を気付かないふりして、背中を向けて、歩いた。
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