玄関を開けて、閉めて、階段をのぼって、部屋に、篭る。
下から母の声が聞こえたが、答えられないくらい息が上がって、詰まって、返事が出来なかった。
これが、いけないんだ。
こんなものが、繋がっているから。
小指の赤い糸が、疎ましい。
これがなかったら、もしかしたら俺達は、あんな風に友達になれなかったのかもしれない。
だけど、これがあるから、友達でいられなくなる。
男同士なんて、駄目だ。
絶対、上手くいくはずない。
知ってるだろ、見てきただろ。
母と父の、赤を。
繋がっても、幸せになれなかった、糸を。
好きになったら、いけないんだ。
だから。
俺は。
引き返せなくなる、前に。
「なにが、運命、だよ…、」
それ、を。
「こんなもの…ッ!」
ぷつり、と。
引きちぎった。
力任せに。
糸みたいな。
赤い。
何かが。
引き攣れて。
綻びて。
「運命なんて、知らなければ、よかった」
どうして、俺に、見えたんだ。
見えなかったら、違っていたかもしれないのに。
どうして。
…どうして、俺は。
泣いて、いるんだろう。
涙が、出ているんだろう。
わからない、けれど。
何かが、壊れていく、感覚。
この糸を、俺は。
違う、誰かに、結びつけた方が、いいんだろうか。
丹澤の、切れた糸を、誰かに、繋いだ方が。
でも、怖くて。
そんなこと、出来なくて。
ただ、恐ろしくて。
勝手に流れる涙を枕に押し付けて、布団を頭から被った。
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