「丹澤君、ちょっといいかな」
「あー、と」
「いいよ、行ってこいよ」
あれから何日か経った後の、昼休み。
多分、隣のクラスの重田さん。綺麗な黒い髪で、有名な子。
きっと、告白、だろう。
いいな、あんな美人に告白されるとか、俺には一生ない。
「わり、行ってくるわ」
「ん」
美男美女。
遠くなる背中に、ぐずぐずと、痛み。
違う。
誤魔化すように飲んでいたペットボトルの中身を空けて、ゴミ箱に叩きつけた。
好きに、ならない。
俺は、あいつを。
「で、どうしたんだよ」
「断ったー」
「もったいねぇ」
「だって、何かさ、違うって気がすんだよなー」
「違う?」
「今までと違って、考え方変わったっぽい」
「何だそれ」
「さあ?」
そう言って俺を見る、丹澤の目が。
違う、気がした。
いけない、気がした。
侵食、されかけてる、気がした。
「丹澤」
「何?」
「…俺、彼女作るわ」
「は?好きなやつ、居んの?」
「……さあ?」
居なくても、今は、それが問題じゃない。
離れなくては、そう、思わされた。
俺も、丹澤も。
綻び始めている。
何かが、少しずつ、変わってきている。
ゆらり、風でも揺れない糸が、酷く疎ましい。
これが、なければ、きっと。
俺達は、友達で、いられた。
わかってる。
運命の相手に出会って、一緒に居て、何も変わらないなんて事は、有り得ない。
「作んなよ、彼女とか」
「何で?」
「お前に彼女出来たら、俺どーすんの、ひとりじゃん」
「お前の方が、簡単に彼女作れるだろ」
なあ、そんな顔、すんなよ。
何かに、捨てられた、みたいな顔。
気付かないで、くれよ。
「藤井」
「……」
「俺、さ」
「…丹澤、」
「……ごめん、何でもない」
友達で、いさせて。
← top →