登校途中、一組の夫婦を見た。
糸を、一度引きちぎったような。
嗚呼、あのひと達は、運命に逆らって、運命を手に入れたんだ。
そんなひとも、居る。
「よ、藤井」
「はよ」
「何かよく会うよなぁ」
「何だよお前、ストーカーか」
「ばっか、お前がだろー?」
朝から丹澤の顔を見て、心臓がぐっと痛む。
最近、より強く罪悪感が俺を締め付けるようになった。
「案外、運命かもな」
「…え?」
足、が、止まる。
「ぶっ、何お前、信じてんのかよ?」
「……違ぇよ、お前があまりにも馬鹿すぎて、びっくりしただけだ」
大丈夫だ、そんなもの、丹澤は知らない。
ましてや、男、同士だなんて。
有り得ない。大丈夫だ。
俺だって、そう思ったんだ。
もしかしたら、さっきの夫婦みたいに、違うひとと運命を作るかもしれない。
それに、運命の相手と、一緒になるとは限らない。
違う糸同士で、結婚しているひとたちだって居る。
そうやって、全部、否定した。
男なんだ。結婚も、子供も、出来ない。
一緒になる、なんて選択肢は、ない。
「…なあ、丹澤」
「んー?」
「もし、さ」
「うん」
「赤い糸とかあったら、どうする?」
「はあ?赤い糸?」
「そ、運命の赤い糸」
「何、見えんの?」
「…見えるわけ、ないだろ」
「で、何でそんなこと聞くんだよ」
「いや、…運命の相手って、何だろうと思って」
さっきまで、馬鹿にされて、馬鹿にした、その話を。
何の気なしに、呟いた。
真剣に、取り合わなくて良い、笑ってくれれば良い。
それなのに、どうしたって、俺は。
「自分で選ぶな、俺は」
「…」
「運命とか、どうでもいい」
…そう、そうだよな。
それが、正解なんだ。
俺が見ているものは、所詮、紛い物。
そう、思っていいものなんだ。
絶対じゃ、ない。
「…やべ、もうこんな時間だ、急ぐぞ」
「うわ、藤井の所為だ」
「違う、丹澤の所為だ」
俺達は、これでいい。
走って痛む心臓を、握り締めた。
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