「早くしろよー」
「ちょっと待ってよ!」
ふわり、スカートが揺れて、俺の横を走っていく。
ふわり、赤い糸が揺れて、俺をそのまま、通過した。
あの女のひとは、運命のひとに、出会ったんだろう。
…その横に居る男じゃない、運命のひとに。
幼い頃から、俺はそれが見えた。
所謂、運命の、赤い糸。
小指から垂れ下がる、ミシン糸みたいな、赤。
幼いながらに、わかっていたんだろう。
それは、普通、見えないと。
親にだって、誰にも、言わなかった。
言ってしまったらどうなるか、本能的にわかっていたから。
それに、全員が全員、誰かと結ばれている訳じゃない。
最近漸くわかったことだが、運命の相手、に出会って初めて、赤が存在し始めるようだ。
「藤井」
「…丹澤」
ふと、後ろから声が聞こえて、振り返れば、女子が喜びそうな甘ったるい顔をした男が、そこに居た。
金と茶の混ざったような髪色は、その男によく似合っている。
「一緒に帰んね?」
「おー」
隣に並ばれると、俺が完全に霞む。
いや、俺は元々目立つような顔でも、何でも無いんだが、隣が異質すぎて。
「あ、丹澤くん」
「帰るのー?」
「帰るよー」
「今度遊ぼー?」
「いいよ」
「バイバーイ」
「じゃーね」
…相変わらず、女子におモテになることで。
同じ人間とは思えないくらいだ。
「丹澤は彼女に困りそうにねぇよなー」
「そうでもねーっての、最近全然出来ない」
そう言われて、どくりと、心臓が打った。
「それに、出来なくても良いかも」
「…なんで」
丹澤の、透ける、金糸が、揺れる。
「さあ?付き合うのとか、面倒になったとか?」
「……贅沢な悩みだな、しね」
「ひっでー!」
そう。俺とお前は、こうやって笑っていればいい。
気付くな。絶対に、気付かないでくれよ。
俺は、お前と、このままで居たいんだ。
たとえ、俺達の間に、赤糸が、揺れていたとしても。
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