保健室の先生は、どうやら部屋にいたらしくて、俺がカーテンを開けると、優しそうな笑顔を浮かべていた。
「大丈夫よ」
「……せんせい、」
「そうだ、藤井くんはまだ時間ある?」
「…はい、あります」
「先生とお茶しない?」
そう言ってから、何だかナンパしてるみたいね、と先生は恥ずかしそうに首を傾げた。
母親よりは年がきっと若いけど、でも母さんみたいな、安心できる雰囲気のひとだった。
「そこの部屋に入っててくれる?」
「はい」
「緑茶でいい?」
「はい」
相談室と書かれたそこには小さな机と、二人がけくらいのソファーが向かい合わせでふたつ。
片方に腰を降ろすと、先生がふたつカップを持って入ってきて、俺と反対側の席に座った。
「担任の先生は、だれだっけ?」
「富山先生、です」
「ああ富山先生、結構熱血なタイプでしょう?」
「そうですね」
他愛のない、いつだって出来る会話。
先生は、俺との会話を楽しんでいるように、どんどんと違うことを話した。
それから、一瞬、小さな間が出来て。
ああこのひとには、もしかしたら、言ってしまっても、いいんじゃないか。
きっと、受け入れてくれる。
「先生」
平坦を装った声。
目はうまく合わせられず、うつむいて、少し減った緑茶に、俺の沈んだ目が、映る。
自分の指先を握って震えを抑えた。
「ん?」
「おれ、」
「うん」
「……丹澤が、すきなんです」
「さっきの子?」
「………はい」
男が、好きと。
そう、俺は言った。
先生にわからせてしまった。
「藤井くん」
「はい」
「話してくれて、ありがとう」
ぶわりと視界が滲む。
「ありがとうね」
すっと、胸が楽になる。
よかった。
それから、俺は声を上げて泣いた。
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