「そこのベッド、使ってね」
「ありがとうございます」
保健室の先生に促されるように、指定されたベッドに横たわる。
シャッとカーテンが引かれて、視界には誰も映らない。
遠くから聞こえるのはどこかのクラスが体育の授業だからだろう。
天井にかざす、手。
垂れ下がる、千切れた赤い糸。
かなわない指を、淡く噛んだ。
「藤井」
「………あ、」
呼ばれた名前に、聞き覚えのある声に、目が覚めた。
視線を、合わせたくなくて、丹沢から少しずれた位置のカーテンを眺めることにする。
「放課後」
「そんなに」
「鞄、持ってきたから」
「ああ…悪い」
「まだキツイ?」
「……大丈夫」
起こした身体に、頭が思ったよりくらくらした。
本当に、具合が悪くなってしまったのかもしれない。
「先、帰れよ」
「なんで」
「いいから」
「嫌だ」
ぐらぐら、する。
視界がぶれて、上手く言葉が回らない。
「丹澤」
「何」
「早く、帰れ」
「無理」
こんな言い方されたら、誰だって嫌な気分になる。
でも俺もそこから逃げることは出来なくて、段々と、空気がぴりぴりとしていく。
帰れ、嫌だ、早く、嫌だ。
頷いてくれない丹澤に、苛々する。
駄目だとわかっていても、ヒートアップしてしまった自分には、それを止められずに、叫ぶように、言ってしまった。
「お前と一緒にいたくないんだよ…!」
何のために、糸を切ったのか。
丹澤はそれきり黙って、カーテンを開けて、傍から離れていった。
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