「…………板垣が見える」
「俺だからな」
風紀室から繋がる部屋は、二つある。
ひとつは生徒会室にもある仮眠室。
もうひとつは風紀で在るが故の、指導室。別名、説教部屋だ。
風紀を乱した生徒を、風紀委員が指導する為に特別設置された。
普段は専ら副委員長の役目と有名だが、ここの所ストレスの溜まっている静谷が率先して説教しているらしい。
「他の委員に任せてとりあえずお前は来い」
「……また何かあったのか」
「いいから」
ちらりと指導室に正座していた生徒を見れば、双子のところの親衛隊の連中だった。
あれ程手綱はしっかり握っとけっつったのにな。
「副委員長」
「なんすか」
「お前のとこの委員長借りるぞ」
「あんまり長い間借りれるとと困るんですけど」
「二時間くらい、仮眠室に、…」
…………おい、お前ら、違う、そんな目で見るな。
「何だよ板垣、そう言うことなら、」
「違ぇっつの、とにかく仮眠室借りるぞ」
静谷の腕を引っ張って無理矢理仮眠室に突っ込む。
そうすると今までふざけたようににやけてた姿も形を潜め、ただ情けなく俺の腕を掴んだ。
「………圭登」
「何だ」
「後で連絡先交換な」
「俺も言おうと思ってた」
言う間に手はちゃっかり腰に巻き付いてきた。こら、やめろ。
一度腕をはたき落とすと不服そうに唇を尖らせていて、こういうところは餓鬼臭いと思う。
「俺は寝る」
「マジで普通に寝る方かよ」
「当たり前だろうが」
「……ちッ」
「舌打ちすんな」
「早く犯してェ」
「ふざけんな、俺が犯す側だ」
「ああ?お前が俺組み敷けるかよ」
「出来る」
「させるか」
ベッドに乗り上げてそのまま倒れ込むと、静谷も真似する様に俺の隣に寝転ぶ。
キングサイズ万歳。
「圭登」
「何だ」
「名前、」
隣に居たはずの静谷が、俺を上から眺める。
身体を拘束される訳じゃなく、頭の横に両手をベッドに沈ませて、俺を見下ろす。
「呼べ、圭登」
「……祐貴」
「もっと、」
「ゆう、ん、」
言葉を発しようとする唇を、男は塞いだ。
矢継ぎ早に落ちるそれは、思っていたより心地良くて馬鹿になってしまう。
「圭登、」
「…ゆう、き、…ん、」
「けいと、」
「は、…ん、ゆうき、」
決して深くならないのは、恐らく俺もこいつも、本気になってしまうのが怖いから。
名前を呼んで、口付けて、名前を呼ぶ前に、口付けて。
互いに腰に回した腕で引き寄せ合って、それは少しの間だけ、続いた。
実は寒かったんです
(……委員長、会長、時間で……)
(…………)
(……………ほんとにただ寝てるだけだったな)
(くっついて寝て、暑くないんすかね)
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