起き上がるとベッドで、しかも見たことのない部屋で。
扉の向こう側から何か声が聞こえて、どうやら俺の名前が出ているらしい。
それからふと、意識が無くなることの前を思い出して。
バーンと扉を開ければ、案の定、そこは風紀の部屋だった。
「って言うことがあってだな」
「ねぇよ死ねカス妄想を語るな」
「お、やっと起きたか」
「ふざけんなよお前」
今まで寝てた場所は仮眠室のようだ。
「何で俺がここに居る」
「運んできてやったんだ」
「ああ?」
正確な時間帯は不明だが、先程から然程時間は経っていないだろう。
風紀委員がちらほらと居て、俺の存在を例の奴に問いただしている雰囲気が伺える。
「悪かったな、今すぐ出て行く」
「はあ?それじゃ俺が連れてきた意味がねぇだろ」
「そもそも何で連れてきたんだ」
「お前が倒れたから」
「ッお前の所為だろうが!」
俺は、確かに今現在、ひとりで生徒会を回している。転入生の存在も確かだ。
だが、どんなに辛かろうが生徒会長で居続けるのは、それが義務だから。任命され受理したのは自分だから、投げ出したくない、それだけだ。
あいつらが居ないのは確かに堪えるが、それだけである。
書類の不備?
あるはずがない、疲れてはいるがそこまで中途半端なことをこの俺がする訳が無い。
つまりさっきまでこいつの語りは大体が嘘。
「いきなり入ってきて手刀かまされたら気絶くらいするわ!」
「…何してんですか委員長……」
「いくらなんでもそれは…」
今まで黙って聞いてた風紀委員達ですら静谷を非難している。
ざまあ見ろ。
その癖静谷は飄々としたまま委員長用の椅子に座ってコーヒー何ざ飲んでやがる。
「避けない板垣が悪い」
「反省しろよお前!」
「仕方ないだろ、頼らないお前が悪い」
…それは、でも、お前に関係ないだろ。
「そもそも俺はいきなり手刀かましてねぇ」
確かに一悶着があったが、でもあれは、…。
…………まさか、そのためだとか言うのか。
「お前、まさか、あれ本気か」
「言っただろ、連れてくって」
「ふっざけんなよ、お前…」
がくりと力が抜けた。
しゃがみ込んで頭を抱えれば、近くの委員に大丈夫かと声を掛けられる。良い奴だな、お前。
「あの、でも委員長、話が見えません」
「あ?だから、」
「待て静谷、言うな」
「何でだよ」
「言うな」
「嫌だ」
「死ね」
「断る」
「だったら、」
「いいだろ、俺がお前に告白したくらい」
言いやがったこいつ…!
ほら、ほら見ろ、周りが固まってるじゃねぇか!
そりゃまあ、俺も驚いたけど、いや、まあそれより、副委員長なんか馬鹿かこいつらって顔してるじゃねえかよ!
「返事今すぐくれないなら連れてくぞって言ったんだが、後にしろって言うから連れて来た」
「何間違っちゃいないだろ、みたいな顔してるんですか委員長、確実にあんたが悪いですよ」
「そうですよ委員長、ただの拉致監禁ですよこれ」
おお…委員長がこんな我儘の割りに委員たちは良い奴揃ってるな…。
羨ましい。
「とにかく」
「なんだ」
「返事をいい加減寄越せ」
待て、馬鹿。
お前、ここには他に人間がたくさんいるだろう。
馬鹿か、馬鹿だな、こいつ。
「返事」
「いやだ」
「何が嫌なんだ」
「他に人がいるんだぞ」
「…ってことは、俺が嫌なわけじゃないんだな?」
しまった…!
「よし、付き合うか」
「無し、今の無し!」
「却下」
良い笑顔で席を立ち俺に手を伸ばす静谷に、俺はもう、色々諦めるしかないことを悟った。
「好きだ、圭登」
「………そうかよ、馬鹿」
「返事は?」
「…」
「返事」
「…………付き合ってやっても良い」
唇に温もりを感じた同時に、頬が熱くなった。
風紀委員の奴らに、今のは全部夢の出来事だったと、思い込んで貰いたい。
実は好きだったんです
(振られなくてよかったですね、委員長)
(この場で振られたら赤っ恥ですもんね)
(馬鹿かお前ら、勝てない賭けを俺がすると思うか)
(!)(…こいつ……)
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