side 吉川
「かーいちょ」
「あ?」
「また寝てないのー?」
「いや、……寝た」
隠す気も無い癖に、会長はそう言った。
ご飯は食べたの?
聞いたら絶対、食べたって言う。
チョコレートひとかけらでも、食べたことになるんだって。
かいちょーのうそつき。
昨日、夏休みが明けた。
始業式は全員で出て、ちょっと挨拶して、そこにはいいんちょーがいたけど、一度もオレ達を見なかった。
かいちょーのほっぺたにちゅーしてみたり、抱きついてみたり。
色々したら何か言われるかと思ったら、「生徒の前だと混乱を招くからやめろ」って言う、風紀委員長の言葉だけだった。
ねぇ、会長。
隈、酷くなったね。
ちょっと、痩せたよね。
ねぇ、何で。
何で頼ってくれないんだろう。
委員長も、いないのに。
どうして?
辛いなら辛いって、苦しいなら苦しいって、そう言ってくれたらいいのに。
どうして、オレ達じゃ、だめなの。
ずっと一緒に居たのに、オレ達が一番近くに居たのに。
確かに、オレ達が先に、明里の方に行ったから、仕方ない部分だってある。
でももしかしたら、頼ってくれるかなって。
ひとりじゃなかったって、わかってくれるかなって。
奪っていったあいつを、殺してしまいたい。
そうしたところで、オレ達が一番になれる訳じゃないとわかっていても。
「吉川」
「……なーに?」
「………いや」
色々自分でも凶悪な、ゆがんだこと考えてたなって思ってたけど、もしかしたら顔に出てたのかもしれない。
ぽすん。って。
かいちょーが、笑って、頭を撫でてくれた。
「お前は、気にしなくて良い」
なに、それ。
気にするに決まってんじゃん。
「かいちょーの、ばか」
「あ?どこがだ、ふざけんな」
何にもわかってないこのひとは、そうやってひとを取り込む癖に、立ち入らせようとしない。
「かいちょ、もっかい痕つけさせて」
「はあ?」
だから問答無用で、また噛ませて頂きました。
前に俺が噛んだのを思い出したらしくて一瞬動きが止まった隙を狙って。
大丈夫、今度は血を出さないように、ちゃんと歯型ぐらいですませたよ。
「ッ、てぇんだよこのやろう!」
「い、ったあ!!」
「自業自得だ!」
殴られたのは、ちょー痛かったけど。
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