「かーいちょ」
「…何か用か、吉川」
「あれ、いいの?」
体育祭についての、会議。
夏休みに各委員会が集まって行うそれに、生徒会では俺、会計と書記が参加している。
他は各委員長、また運動部代表、文化部代表が出ていた。
で、吉川が言っているのは、休憩時間の今目の前で行われている茶番である。
「僕、静谷くんと一緒のグループがいいなぁ」
「そう言われても、俺が決められることじゃないんで」
「えー、静谷くんが一言言ってくれれば大丈夫じゃないかな」
「そんなこと無いと思いますよ」
静谷と、文化部代表、三年の姫菱。
「かいちょー、腕組んでるよ」
「…ちか、い」
「……勝手にさせとけ」
どうもあの先輩は、静谷がお気に入りらしい。
確かにすらりとした和風の美人だし、ミステリアスだ何だと親衛隊も持っているようだから、自信があるのはわかる。
が、静谷への絡みは異常だ。
というか絶対好きだろ。
苛々するのは事実。
しかし俺達の関係は生徒会と風紀以外は伝えていないし、無駄に絡んでいるのは休憩時間だけだから、会議自体に支障も出ていない。
つまり、注意する必要が、ない。
「ほんとにいいのー?」
「……」
「まあ、オレ達としたら好都合だけどー、ね?」
「ん」
うるさい。
こっちは必死に目に入れないようにしてやってんだ。
視界から遠ざけるように窓の外を眺める。
相変わらず外は暑そうだ。
この部屋は冷房が効いてて涼しい。
そういえば、部屋の設定温度は何度だっただろう。
「あ」
「あ、」
現実逃避、のようなことをしていると、会計と書記、それからざわりと一瞬、周りがうるさくなって、急にぴたりと静かになった。
何だ、間抜けな面して。
不思議に思って、ゆっくりと全員の視線の先を追いか、……おい。
おい、待て。
お前らか。やっぱりお前らか。
視線の中心は、静谷と姫菱で。
キス、してやがる。
……おい、静谷、どういうことだ、ああ?
「かいちょー、浮気だよ、浮気、どうする?別れよーよ」
「わかれ、る?」
「いや、……まずやることがあんだろ」
さすがに、これは、許せないと、言うか。
……我慢するのは、性に合わねぇんだよ、馬鹿が。
「あは、奪っちゃった」
奪っちゃった、だ?
どこをどう転んで唇が重なったかは、もう問題じゃない。
恋人の前で、よくもまあ、あんな油断が出来たもんだ。
なあ、静谷?
近くの椅子を蹴っ飛ばして、ゆっくり、ふたりの元へ向かった。
「しーずーや」
「……いや、板垣、待て、誤解だ」
口元を拭いながら、さっと顔を青くした姿が目に入る。
冷や汗垂らして弁解するのはいいがな、隣の先輩、未だにお前の腕組んでんだけどな?
「どうしたの板垣くん、怖い顔しちゃって」
「先輩は黙ってて貰えますか」
「えー…でも、今休憩時間だし、別に迷惑は、」
「黙ってろ」
姫菱を睨みつければ、怖がりもしないで渋々やっと離れていった。
誰がミステリアスだ、ただ腹を見せない腹黒だろ、こいつ。
「おい」
「悪かった」
今は別に、謝罪を求めているわけじゃない。
俺が、気に入らないだけだ。
緩めた襟元からのぞく、首筋。
静谷の胸倉を掴んで、そのまま、そこに歯を立てた。
「いッ…!?」
抵抗するように身体を押されるが、その変わりに噛む力を強めれば、諦めたのか段々と抵抗は弱くなっていった。
数分間。
誰もが声を発せず、視線は、俺達に。
姫菱さえもただこちらを見ているだけで、笑いたくなる。
「勝手にされてんじゃねぇよ、馬鹿が」
少しだけ血に塗れた唇を、乾いた唇に重ね、少しだけの優越感を隠すように、口元を拭った。
「休憩時間終了だ、会議を再開する」
静谷の手当て?
吉川あたりにさせてやるよ、仕方なく。
各々が漸く硬直から抜け出して席に付いていく中、納得のいかない顔をした姫菱がこちらを向いて、威嚇するように口を開いた。
「あのさ、板垣く、」
「ああ、そうだ、姫菱センパイ」
「え、…あ、何?」
何かを言い出す前に、手を伸ばして、するりと唇に指を滑らせる。
…お前の思い通りになんて、誰がさせてやるか。
「間接キス、…ですね?」
にやりと口角を上げれば、白い頬に赤みが差した。
皮肉くらい気付けよ、馬鹿が。
実はおかしいんです
(かいちょーって、あれあんまり深く考えてないよね?)
(…た、ぶん)
(どっかの委員長も気をつけないと敵増やす一方だよー)
(うるせぇわかってるよ)
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