「……大輔はさぁ」
「はい」
「可哀想だよね」
「………そうですか」
「騙されてるよ」
騙されてる。
鈴さんは何回もその言葉を呟いた。何に対してだろうか。自分の感情?
「別れたい?」
「まだ、別れたく、ないです」
「どうして?」
「……わかりません」
嘘だ。それはわかる。
でも、素直に頷けなかった。
「はっきりさせようか?」
「……はい」
「尚人が俺と身体重ねてるのは、嫌?」
「……はい」
「俺が尚人を好きなのは、嫌?」
「……はい」
「尚人が俺に構うのは、嫌?」
「……はい」
「それじゃあさ」
はっきりさせようか。
確認するようにまた言って彼は席から立ち上がった。そうだ、ここは店内だ。すっかり話に入り込んでて、自分の頭から場所がすっ飛んでたらしい。
あの話は周りに聞かれたんだろう、何人かがこちらを見ている。もうこの店は使えないな、少しだけ気に入っていたのに。
金をいつの間にか払い終えた鈴さんに連れられて、俺達は道を急いだ。
この風景は見たことがある、それは毎日のように通っていた道。あの店は、大学の近くにあって、その近くにあいつの家があるのだから、当たり前で。
俺は抵抗しなかった。遅かれ早かれこの道は通っていただろうから。
鈴さんの後を、ただ追いかけた。
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