簡単に直球で言えば、浮気。
夏に入りそうな蒸し暑いその日の夕方、俺は理解した。
どうして浮気だとわかるかなんて、一目瞭然。
その、つまり浮気相手と、あいつの部屋で会ったから。
「あんたが大輔?」
「………そう、ですけど」
「へぇ、尚人も趣味変わったなー」
「……というか、どなたですか」
「俺?俺は鈴だよ」
「や、そうじゃなくて…」
「尚人の元カレ」
「え、」
「あと、現セフレ」
セックスだけなら浮気と言わない、とかそんな考えのひとがいるかもしれないが、俺にとっては立派な裏切りだと思ってる。
つまり浮気相手が堂々と目の前にいるわけで。
普通は、パニックになると思う。
でも何故か自分でも不思議なほど冷静だ。
「あれ、今までだったら泣くとか尚人に電話かけるとか、俺を殴るとかするのに」
「そんな綺麗な顔殴っちゃいけないでしょう」
「はは、可笑しいね、君」
ほんと、何で談笑なんかしてるんだろうか。
単に、この目の前の顔が異様に整っていて、まるで悪びれる様子がないそのひとに、呆気に取られているからかもしれない。
「俺達が何で別れたか教えてあげよっか」
「や、別に」
「いいからいいからー、って言ってもそろそろ帰ってくる時間かな」
「三十分しない内には」
「そっか、じゃあメアド教えてよ」
「は?」
「ほら、赤外線」
その後どうしたかと言えば、俺は流されるように、彼とアドレスを交換した。
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