「………だいすけ、」
身体より震えた声で、俺の名前を呼ぶ。
応えるように、俺は、俺を抱き締める尚人の背中を緩く撫でた。
「ごめん、」
「何に対して?」
「不安にさせた、今は大輔だけだけど、それでも、俺は、」
「俺は、何も言えない」
過去に、確かに鈴さんを好きだったこと。浮気したこと。
今もまだ、鈴さんを責められないこと。
消えない。それは、仕方がないから。
だけど。
「俺は責めるとか…そういう立場にいない」
浮気とか、別れさせようとすることとか、俺じゃなくて、彼等の問題だから。
俺が、不安になった。
でもそれは俺が信じてなかったのもある。だって今の今まで、尚人の話を聞こうとも、確認しようともしなかったから。
責める立場に無い。それが、俺の苦しい立場。
責められる事は無い。それが、尚人にとっての苦しい事。
「もしさ、尚人」
「…何?」
「俺が別れを切り出してたら」
「……俺、駄目になってただろうな」
「どうして」
「少し離れただけで、きつかった、あんなのはもう、嫌だ」
「…弱いな、尚人は」
俺の首筋に埋めていた顔を両手で柔く挟み持ち上げて、額を軽く、合わせた。
向き合う目が互いに歪んで、自然に生温かい水が頬を流れる。
―――泣いてる。
どちらともつかない声が聞こえて、そしたら俺達は、いつの間にか唇が重なっていた。
離れたら、また重なって、何度も、繰り返した。
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