「俺達は結局別れた」
「お互いに浮気したんだから、当たり前だけどね」
「俺は、その後何人かと付き合って」
「俺は、それを別れさせて」
「…それを俺は、どうすることもしなかった」
「俺がやったって、本当は気付いてたのにね」
嫉妬して、反抗して、それでもお互いに、どこか気になっていたこともあったのだろう。
好きだったから、それは少しだけの執着となって。
これは、憶測にすぎないけれど。
「鈴さん」
「何、大輔」
「どうして、俺を、…騙されてることを、俺に教えたんですか」
「言わなかった?償いだって」
「……他のひとにも、言ったこと、あるんですか」
「ないよ、ただね、気に入ったんだ、大輔のこと」
「気に入った?」
「だって大輔、本当に尚人のこと好きみたいだったから」
「…それだけで?」
「うん、それだけだよ」
「そう、ですか」
「うん、俺は尚人が好きだったからね」
自分より軽い気持ちを持つ人間に、任せられない。そういう、ことなんだろうか。
それから暫くして、鈴さんはすっと立って家を出て行った。
また遊ぼうよ、と言った彼は、どことなくすっきりした顔をしていて、俺も笑って、そうですね、と返した。
尚人だけは少し複雑そうな表情だったけど、鈴さんが居なくなった瞬間、俺を引っ張って腕の中に閉じ込めたので、その後の表情は少しわからない。
いや、でも、少しだけわかっている。
本当に微かに震えていた。
だからきっと、泣きそうな顔を、しているんだと思う。
← top →