「お前と、ヤってから」
「…」
「お前のとこのやつに、お前が違う男抱いてるって、聞いた」
「誰から聞いた」
「名前は知らねぇ、けど」
「……信じんのか」
「だって、」
「何だよ」
「……その後、お前、首、に」
赤い、印。
最初は、信じてなかった。それなのに、見つけてしまった。
自分でさえ、つけたことの無い痕が、彼の首に在るのは、そういう事の結果。
その瞬間に、気付いた。自分達の関係は、何に値するのか。
今まで、付き合っていたと、勝手に思い込んでいた。博之は、聖に好意を抱いていたし、そうでなければ、わざわざ男と体を重ねることはしない。聖からも、好かれていると思っていた。だから、体を預けていた。
付き合っていると、互いに、ひとりきりの存在だと、思っていた。
「俺は、お前しか知らねぇけど、お前は、俺以外を知ってる」
最後には殆ど彼自身にも聞き取れない程小さい声で呟く。
辛うじて聞こえた声に、聖は溜息をついて、それから、彼を腕の中に囲った。
小さく跳ねた体を押し込めるように、抱き締める力を強くする。こんなに大人しく、弱弱しい彼を見たことがなかった。ただこれが、本来の博之なのかもしれないとも思う。
「悪かった」
「……何に、対してだよ」
「全部、言えば良かったんだ」
「は、別に、いらねぇよ、この関係だけ、知れれば」
彼は否定する言葉を吐くくせに、抵抗はしなかった。
単に強がられるよりも、全てを諦めてしまったような様子が、聖には辛い。
← top →