シャルトリューと朝食 | ナノ



「なぁ、俺たちの関係って、何だよ」

小さな声で、呟いてみる。どこにも広がらない、雑踏に消えた声。
立ち止まって、このまま隠れてしまおうか。前を歩く男の背中に投げかけたが、生憎相手は気付いていない。逃げるならチャンスだと思う。
この曖昧な関係から逃げ出せる。このまま、消えてしまおうか。
でも、もし気付かれていたら、どうしたのだろう。そんなことを聞いて、どうしたいというのだろう。

博之は考え込んで、それから、目の前の男を見失わないよう、追いかけた。
矛盾した行動。
つまり捨てられるのが怖いのだ。だから、捨てられる前に、捨てる。博之はいつもそう考える。捨てられるから哀しい、なら、その前に捨ててしまえばいいと。

「おい」
「あ?」
「また何か考えてんのか」
「…かもな」
「それいい加減にしろっての」
「……」
「お前、また話聞いてなかったんだろ」

首を傾げた様子に、目の前の男、聖は深くため息をついて呆れたように言葉を吐き捨てた。
…また、少し気持ちが離れてしまっただろうか。いつまで自分は彼に拘るのか。いつまで自分は彼を失望させ続けるのか。いつまで自分は、彼の隣に居られるのか。

「俺、この後用事あっからって話」
「……あっそ」

文句も言わずに呆けたままの瞳で頷くと、聖は眉を寄せて不機嫌そうに顔を歪めた。
また、話を聞いていない。もしくは、聞いていたとしてもよくわかってない。そんな風に彼は理解して、頭を軽く小突く。

違う。どんな用事なのか、怖くて聞けないだけだ。どこまで、口に出しても許されのかわからないから。

「とりあえず飯、行くぞ」
「…ん」

止まっていた道をまた再び歩き出す二人。人通りの多い夜。暗い中光る電球。擦れ違う、顔の無い人々。雑踏を見渡していると、まるで迷子になりそうな子供を捕まえたように、彼は博之の腕を掴んだ。
その二人に雑踏は、ちらちらと目線を向ける。色の篭った、様々な視線。どこにいたって、結局は同じだ。気にしない聖も、気にする博之も。どこにいたって関係は変えられない。
ずきりと痛む胸を、強く押さえつけた。

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