塩梅

 
仕事も何もうまくいかない。こんな姿カイジに見られたくない。そんな気分で行きつけの居酒屋で大いにやけ酒をしていた。足下がふらついて大将にもう酒はやめろと取り上げられた時から意識がない。
「おはよ」
その言葉はふわりと宙に浮いていった。ひどい頭痛と目眩に襲われるなかベッドから上半身を起こした。昨日の服のままだ。
「やっと起きたか。もう1時だぞ。ほら、ご飯作ってやったから食べろよ」
カイジは味噌汁をすすめてきた。
「ほら、二日酔いにはしじみが効くらしいぞ」
「はーい」
言われるがままに味噌汁を飲み干した。
「お前昨日は酷かったぞ。いつもの大将から電話かかってきてさ。タクったけど」
「ごめん」
「あ、あと、タクシー代はお前の財布から抜いといたから…」
そう言いながらカイジは斜め下を見る。
「サンキュ」
そう言いながら、卵焼きも冷凍ほうれん草も全部麺つゆ味のご飯をつつく。昔は味付けはすべてソースだった頃には大したものだ。
「ご飯、どうだろ、うまく作れてるか」
「うん、美味しい美味しい」
間がもたなくなったのかカイジはTVをつけた。大昔にブレイクした芸能人たちがのほほんと少し寂れた観光地を案内している。
「俺、昔こんな街に住んでた」
「へぇ」
カイジが自分のことを話すのは珍しかった。家事オンチな家政夫、それだけでいい。
「最近疲れてそうだし、俺でよかったら何か…」
カイジはまた私から目を逸らす。唐突に震える手を私の方にあげてくる。何のことかと思った。
「お前の読んでた雑誌に女子はこういうのが喜ぶって書いてあって…」
耳まで真っ赤になっている。
「バーカ」
カイジのくせにそんなことするなっ…!



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