こんばんは名前変換( 46/56 )




夜中電話がかかってきた。
「もしもし、俺だけど」
「もしもし、幸雄」
「今日、家にいるんだけどさ。もう、俺のこと信じられないだろ」
「そんなことない」
私は小刻みに横に首を振って否定した。
「だから、許して欲しいとか思ってない。昨日は本当に悪かった」
「私がデリカシーがなかっただけでこっちこそごめん、ねえ、幸雄家にいるんだよね」
私は手に馴染んだキーケースを手に取り幸雄の家に入った。よれた黒いシャツを着た幸雄は電話片手に目を大きくしていた。
「なんで、お前来たんだよ。お前を殴った男だぜ。もっとひどいことするかもしれねぇだろ」
「平山さんはそんなことしない。私の知ってる平山さんは賢いからそんなことしない」
「そんな買いかぶられても…俺にどんな確証があって…」
平山さんはこっちを振り向いて向かってきた。
「一年間平山さんと過ごした日々、舐めないで」
***
事情はこうだった。6年前伝説的な麻雀を打つアカギという少年がいた。その少年の特徴は都市伝説にもなるほどの神がかった打ちまわし。そして、日本人離れした真っ白の髪。しかし、6年前からアカギは消息を絶っていた。そして、偽のアカギとしてスカウトされたのが、コンピュータのように強い麻雀を打ち、色素の薄い髪を持つ幸雄だった。
アカギを名乗って、組の代打ちになり幸雄は出世していった。そして、一昨日、本物のアカギが現れた。本物のアカギの打ち筋は誰にも読めない、本当の天才のそれであった。
***
「笑うだろ、なぁ、笑えよ。笑ってくれよ、頼むから」
幸雄は私を抱きしめながら押し倒してきた。
「認められたいから、他人の名前使って麻雀打ってたんだぜ。なぁ。情けねぇだろ」
ワンピースが幸雄の涙で生暖かく濡れた。
「幸雄は頑張ったよ」
幸雄の色素の薄い瞳が動揺している。
「誰の名前で打とうと、その打ち方は幸雄のだから。頑張ったのは幸雄だから」
耳元で
「ゆきだけは裏切らないで、どこかに行かないでくれ」
「大丈夫、大丈夫だから。幸雄」
ギュッと抱きしめた。
***
「…そろそろ重いんだけど」
「すまん」



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