こんばんは名前変換( 41/56 )




サークルの部屋の椅子にコートを掛けて、座りレポートの続きに手をつけた。シャーペンが冷たくなっていて、手がかじかんでうまく文字が書けなかった。春、入学して同級生と付き合っていた後輩が、他の先輩と手を繋いで入ってきた。後輩の黒髪ボブの下の瞳が動揺したのがわかった。私のことを気にしながら、先輩と話す後輩を見ていたら居たたまれなくなって自習室に向かった。
***
自習室が終わるので、終わらせたレポートは日本語の足りない微妙な仕上がりとなった。再提出もありえるなと重い体を起き上がらせ、自習室を後にした。
帰りのバスから降りると、帰り道の雨は雪に変わっていた。公園のベンチには、常連さんの猫の足跡があった。少しテンションが上がって小さな雪だるまを作っていると、黒のロングコートを纏った幸雄がやってきた。
「ゆき雪が降ったから、雪だるま作るって小学生かよ」
「幸雄もやってみてよ。たのしいからさ」
いい歳した二人で公園のベンチの上に積もった雪で雪だるまを作る。
「できた」
幸雄の雪だるまは顔の凹凸までしっかり彫られていた。
「やっぱ幸雄って手先器用だね」
私のはなんだか土が混ざって汚い。
「手袋なしで雪触るのはやっぱキツイ」
とボソっと幸雄が呟いた。
「幸雄は今から麻雀」
「そうだけど、手が冷たすぎて、馬鹿なことした」
「ちょっと待ってて」
そういうとカバンの中の予備のカイロを開けて、マッキーで不器用な文字で『がんばってね』と書いた。
「これ、あげる。あーあと折りたたみ傘」
「さんきゅな。なんだこれフリフリじゃねぇか。組の人に笑われるなあ」
幸雄は苦笑した。
「ごめん」
「最近、組長に目をかけてもらえてるからよ、今日も絶対負けねぇから。ゆきは気をつけて帰れよ」
そう言って幸雄は私の頭を撫でた。ヒラヒラの小さな折りたたみ傘をさした幸雄のシルエットを眺めながら笑って
「がんばってねー」
と叫んだ。ロングコートの後ろ姿は右手をひらひらと振っていた。



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