こんばんは名前変換( 19/56 )




大学から帰ってきてルームウエアに着替えようとしたら、電話が鳴った。
「もしもし、平山さん」
「うん。俺だけど、最近改装したパフェが美味しい喫茶店にいかないか。アンタそういうの好きだっただろ」
「…うん、行きたいよ。いつ行こうかな…」
「来週の土日なら俺は大丈夫だけど、ゆきは」
「来週の土曜日なら大丈夫だよ」
「じゃあ、切るぞ。楽しみにしてるからな」
ツーツーツー。
思いがけない予定に胸がキュゥウとした。伸ばしっぱなしの前髪を切るために、
すぐに美容院の予約をした。
***
姿見の前でお気に入りのミニスカートと最近買ったワンピ―スを手に持ち迷っていた。たぶん、平山さんはどっちも似合ってるよって言ってくれるはずだ。だから、余計に迷ってしまった。迷った挙句、シフォンのワンピースに手を通す。ハズレじゃないはずだ。いつも以上に入念にメイクをする。いつもは面倒でやらないのに、コテで髪の毛を巻いていたら、チャイムが鳴った。急いで平山さんに着信を入れた。
「時間だからまだかなと、思って」
「忘れてたわけじゃないしもうすぐ髪の毛巻き終わるから…えっと」
「ふーん、なるほど気合い入れてくれてるわけだ」
「そんなんじゃないよ…」
「楽しみにしてるぜ」
唐突に電話は切れた。メイクの仕上げに恋色リップと宣伝されていた、グロスで唇を彩る。ツイードのジャケットを羽織り、ドアを開けたら、平山さんがいた。
「おはよう」
「おはようございます、遅れてごめんなさい」
「別にいいよ」
見上げると昼間の陽の光に当たった平山さんの肌は透き通るように白く、髪はキラキラ輝いていて、私は平山さんをずっと昼の世界に閉じ込めたいと思ってしまった。
「何ボーっとしてんだよ。行くぞ」
平山さんの黒いジャケットを追いかけてついていく。バス停までの途中、例の三毛猫はベンチの上で存分に秋晴れの中くつろいでいた。バスにの隣の席に座るとハーブとウッデイな香水の匂いといつものタバコの匂いが混ざった匂いがした。いつもと違う平山さんの香り。もしかして、私に合わせてくれたのかなと思うと胸が高鳴った。今日の平山さんはスタイリング剤で前髪を斜めに下して、メタルフレームの眼鏡をかけていた。でも、Vネックのカットソーにゴツイシルバーのネックレスと、シルバーの指輪を指に3つはめているのを見て、ホストの私服を思い出した。

駅は休日なのに、中途半端な時間なので空いていて、二人とも座れた。大学の授業がつまらないこと、サークルの同級生と後輩のカップルがまた復縁しただろうということ、そんなたわいもない話を私が一生懸命話していた。喫茶店の近くの駅につくと平山さんはあらかじめプリントした地図を出した。
「今から、喫茶店でいいよな」
「うん」
私は平山さんのジャケットを掴んで必死についていった。それに気づいたのか平山さんは歩くペースを落としてくれた。下町風情漂う商店街に入り、商店街の大通りを逸れた道に入った。そんなところに喫茶店があるのか心配だったけれど、平山さんについていった。喫茶店は住宅街と商店街の境のようなとても見つけにくいところに存在した。
「ここ…だよな」
「ここっぽいね」
カランカラン。
店のドアを開けると意外にも満席に近かった。
「こちらの席にどうぞ」
手作り感漂うメニュー表をパラパラみる。
「あっ、これがおすすめのフルーツパフェかあ。じゃあこれにしよっかなぁ。平山さんはどうするの」
「ブラックコーヒーで」
「なんで!」
「なんで、って男が甘いもの食べるってなんか…かっこ悪いだろ」
「えー。いつも、私の持ってきたポッキーはほとんど平山さんが食べちゃうのに。ここまできて、かっこつけてコーヒーだけっておかしいよー」
「うるさいなー、頼めばいいんだろ、頼めば」
結局、私はフルーツパフェ、平山さんはプリンアラモードを頼んだ。
運ばれてきたフルーツパフェは見本の写真より5倍はおいしそうだった。平山さんのプリンアラモードも、そっちを頼んだほうが良かったなと思うほどおいしそうだった。
「いただきます」
私達はスイーツに集中して無言の時間が続いた。
「なあ、ゆきのもうまそうだから一口頂戴」
私はパフェを平山さんの前に持っていった。
「やっぱ、看板メニューだからうめえな。ゆきもそう思っただろ」
と聞かれても、平山さんが舐めたスプーンを見つめていた。
「あ…俺と間接キスするのが嫌だったとか…」

「違うもん」

とパフェを口いっぱいに含ませた。だんだん顔が熱くなっていくのが分かってくる。
神様、お願いですから平山さんにほっぺが赤いのはチークのせいだって勘違いしてくれますように。



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