こんばんは名前変換( 18/56 )




大学生は恋バナが好きだ。
「でさー、私の彼氏がさー」
食堂でキャッキャと盛り上がる。つやのある黒髪ロングをいじりながら、2年付き合っている彼氏とのマンネリをダラダラと話してくる。そんなもの別れたらいいじゃないか、と言ったらおしまいなのだがそうはいかないのが恋バナというものだ。
「ゆきはさー、最近どうなの。」
「私も気になる。ゆき大学入ってからずっとフリーだよね。気になる人ぐらいいるでしょー」
気になる人と思い浮かんだのが「平山さん」だった。でも、やっぱりこのメンツには秘密にしておきたかった。
「うーん、でも、今は恋愛って気分じゃないかな」
「ゆきって恋愛に興味ないって言ってはいるけど、好きな人いるっぽいよねー勘だけど」
「アンタの勘って結構当たってる気がするからゆきは恋してるに一票〜」
乙女たちの談義は終わらないのだ。
***
深夜一時、髪の毛を櫛で梳かしていたら、突然携帯が鳴った。
「平山幸雄:SOS」
メールが届いていた。私は急いでカーディガンを羽織り、スリッパを履いて、平山さんの部屋へと向かった。チャイムを連打すると、ドアが開いた。いつも色白の平山さんの顔が真っ赤になっている。今にも倒れそうだった。しかし、支えようとしても、体格差で支えきれない。強烈なアルコールの匂いがした。
「どうしたの、平山さん」
「へへへ…ちょっと飲みすぎた。突然呼び出してごめんな」
「そんなこと、謝らなくていいのに」
平山さんをやっとこさリビングに座らせる。ちゃぶ台の上にはウイスキー、日本酒、ビール、焼酎とお酒が並んでいた。
「平山さん、どうしたんですか、いつもはこんなことする人じゃないでしょう」
「麻雀に負けに負けて今ちょっとピンチで…」
「はぁ、それでやけ酒ですか」
平山さんを見下ろす。
「冷蔵庫、勝手に開けますね」
思った通り何もない。お漬物とつまみしかない。唯一ミネラルウォーターがあったので、食器棚からコップを取り出し注いだ。
「平山さん、水ですよ。足りなかったら、ペットボトルから注いでくださいね。では、私は味噌汁を作ってくるのでいったん私の部屋にもどるね」
「ありがと、ゆき」
平山さんの家の調味料の場所もわからなかったしそもそも調味料が存在しているのかも怪しい。と、残り野菜のかぼちゃを切りながら考えた。火をつけ、かぼちゃを入れ、粉末だしを入れ、味噌を入れる。手抜きながらまずまずの仕上がりだ。
平山さんの部屋に鍋ごと持っていく。鍋敷きが見当たらないので、先一昨日の新聞を鍋敷き代わりにする。
「ゆきちょっと酔いがさめてきたかも」
「平山さん、かぼちゃの味噌汁、飲める」
「ありがとう」
平山さんは静かに手を合わせ、私の味噌汁を飲んだ。
「おいしいかな」
「すげぇ、うまい」
「そっか」
と味噌汁をすする平山さんを見守った。
「ごちそうさまでした。ゆき後ろ向いて」
「?…わかった…」
私が後ろを向くと、平山さんの頭が私の背中にもたれかかる感触を感じた。
「俺さ、いつもこういう時ちゃんと一人でやれてたんだよな」
「うん」
平山さんが私のカーディガンを強く握る感触を覚えた。
「俺中学も半端に卒業してからさ、ずっと一人暮らししてきたし、よく引っ越ししてたんだ。だから、ここまで人に深入りするのが怖くて」
「そっか」
「別にゆきのことが嫌いになったとかいう話じゃねーよ」
「わかってる」
「なんか、怖いのは俺自身が弱くなっていきそうで不安なんだ」
「ねえ、平山さん。人は人と繋がっていたって強くなれるんだよ。私に甘える日もあっていい。」
「そうか」
「でも、今日のは貸しだからね。借りはちゃんと麻雀で勝つこと、わかった?」
「わかった」
私が振り返った時の平山さんの表情はいつもと違い、知らないことだらけの世界に放り込まれ不安がっている少年のようだった。



prev next
bookmark back
トップ
章に戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -