こんばんは名前変換( 10/56 )




ピーンポーン。大学生の夏休みは退屈だ。外に出るのも面倒で、夏休みの宿題を口実に平山さんの家で涼んでいた。家から出てきた平山さんはタンクトップに短パンで、見るからに不機嫌そうだった。
「で」
「また、宿題教えてもらおうかと…」
「とりあえずリビングに入って、俺顔洗ってくるから」
リビングで座布団を枕に持ってきた流行りのギャグアクション漫画を寝転んで読む。この2週間で我が家のように振る舞うことが板についてしまった。
半袖シャツにクラッシュデニムを履いた平山さんは、表情も心持ちサッパリしたようだ。寝転がって漫画を読んでいる私に平山さんは少し怖い顔をして
「宿題は」
「はぁい」
数学のプリントを取り出した。
「この5番の問題がわからないの」
「そっか、じゃあ井上さんの思った通りに解いてみて」
私はノートに昨日解いたように解いてみた。
「ここからがわからない…」
「同じ公式使うにしてもこの式をカッコでまとめてから解いてみてごらん」
「えっと、もう一回」
「この式をカッコまとめてから解いてみるんだ」
肩と肩がぶつかって一瞬フワっと意識がどこかに飛んでいってしまった。
平山さんの言われた通りに解くと、ちゃんとプリントに記された答えと同じになった。
「やった、平山さんありがとう」
「じゃあ、同じような問題二、三問作るから待ってて」
すると、平山さんはA4のコピー用紙に万年筆でカリカリと数式を紡ぎ始める。
「平山さんってまつげも金色なんだね」
「あーそうだな」
「髪の毛もやっぱり地毛なの」
「元が金髪だから少し色を抜いてるかな」
いつも上げている前髪。今日は下ろしているので邪魔そうだ。
「平山さんてさ、頭凄くいいよね。慶応、やっぱり東大。それとももしかしてハーバード」
快調に走らせていた万年筆が急に止まった。
「俺は…中卒だよ。学校もろくに行かなかったけど。はい、問題できたぞ」
予想通り、几帳面丸出しの字が並んでいた。
「えー。私はこの問題の5番の解き方だけを平山さんに教えてもらいたかったのに」
「練習練習、井上さんあと最後は応用問題だから」
「聞いてないんですけど」
ぶつくさ文句をいいながら、私は平山さんの作ってくれた問題を解く。平山さんは、私の手元を見ている。なんだか、むず痒くて集中できない。
案の定、応用問題は途中までしか解けなかった。
「あーやっぱり、井上さんもたぶんここでつまづく思ったな。これは、さっきから使ってた公式をこう変形して使うんだ」
「なるほどね」
平山さんの言った通りにするとちゃんと解けた。平山さんはその横で解答を作っていた。
「要点はここにまとめておいたから」
平山さんお手製の解答用紙をもらった。
「ありがとう。で、雀士って暇なの」
「は?失礼なことをいうんじゃねぇ。俺を叩き起こしたのはだれだよ」
「あははは。ごめんごめん」
「でも数学は好きだよ」
平山さんは澄んだ目でそう言った。
私は部屋をぐるりと見渡した。前見た時には気づかなかったけれど、数学の分厚い本が本棚のいたるところに並んであった。代数学、幾何学そして一番多いのが確立論だった。
「数学を解いてると時々神様はいるんだろうと信じそうになるんだ」
「へぇ、全然わかんない」
「寝起きの人間を叩き起こして、解法を教えろって押しかけてくるアンタにはわからないだろうな」
私は苦笑せざる負えなかった。
「平山さん、家庭教師になったらいいのに。教え方うまいし」
「だって俺、麻雀が好きだから」
と平山さんは白い歯を出してニカッと笑った。



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