こんばんは名前変換( 7/56 )




その日から私は平山さんを徹底的に無視した。玄関から出る時はウォークマンで耳を塞いで、平山さんとすれ違う時に音楽を聞いているふりをした。所詮は罪悪感を「知らないふり」というペンキで塗りたくっているだけ。平山を無視するたび私の心にガラスが刺さって大出血だ。
しかし、まあ私も図太い人間で2週間もしたらイヤフォンなしでも平山さんと目も合わさないですれ違うことができた。
***
返事もしない私にlineを送り続ける空気の読めない合コンで知り合った男
サークルの部室でいちゃつく例のカップル
雨のせいで姿を見かけなくなった公園の三毛猫
そして平山さんのことを平気で無視できる私
そんななにもかもが私を苛立たせた。
***
気分を変えて違うカバンを使おうなんて思ったのが間違いだった。ファイルは入らないし、折りたたみ傘も家に忘れた。ずぶ濡れのままバスに乗った。
最寄りのバス停に降りるとちょうど平山さんと鉢合わせした。平山さんは私のことを見ると走ってきた。
「井上さん風邪引きますよ、ほら、俺のでいいなら使ってください」
とスーツのポケットから品のいいハンカチが取り出された。こんないい人を無視していたのか。カバンの表面を拭きながら自分を恥じた。
「井上さん、今日、傘持ってないでしょう。あ、その傘あげるんで」
平山さんが待っていたバスが到着し、平山さんは駆けていった。
渡されたビニール傘に
「ごめん、なさい」
と呟いた。なにかが、わっと崩れるような気がした。



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