こんばんは名前変換( 5/56 )




英語のレポートが完成した。それまではよかった。深夜に部屋着のスウェットとスリッパでコンビニに行った。深夜だろうし、知り合いにも会わないだろうと。
私はいつも飲んでいるレモン味やピーチ味、パイン味のチューハイをカゴに入れる。一番安いチータラとちょっと値の張るビーフジャーキーもカゴに入れた。
店員に年齢確認のための身分証の提示を求められた。あいにく、スウェットには2千円しか入れてない。引き返すしかないか…
「この子ツレなんで一緒に会計いいッスか」
突然聞き慣れた声がした。横を見ると平山さんだった。
平山さんは住基カードを見せ、店員は納得したのか、バーコードを読み取り始める。
「タバコ、15番ね」
「これでいいですねー。3750円ですー」
「おつり、250円とレシートっすー」
小銭が平山さんの高そうな長財布に吸い込まれる。
コンビニのドアの前で
「ありがとうございます、私の分って1000円ぐらいですよね」
私は頭を下げて礼を言った。しかし、私は何か忘れている気がした。
「じゃあ、遠慮なくもらっとくよ。なんで年確されたんですかね。すっぴんだからかな」
動揺していて気づかなかったけれど、平山さんはVネックのTシャツにカーディガンを着ていた。たぶん私が会った日で初めてのオフの日なのだろう。平山さんは買ったばかりのタバコに火をつける。
「あっ」
私は気付いてしまった。
「平山さん、すっぴんだからあんまり見ないで」
平山さんから顔を逸らす。すると、平山さんはどんどん顔を追ってきて思わず吹き出してしまった。
「井上さんはすっぴんでも綺麗ですよ」
平山さんは夜空を見上げてそう言った。
***
「平山さん絶対自炊してないでしょ」
平山さんのレジ袋の中身を見て私は呟いた。私たちはいつもの三毛猫の公園のベンチに座っていた。
「そういえば自炊したことないですね」
「でしょー」
「一本もらっていい」
平山さんはピーチ味のチューハイを勢いよく飲むと
「あっま!!!」
と叫んだ。それが私にはすごくおかしかった。
「あんま、飲み会とかでこういう酒出ねぇし」
平山さんもつられて笑い出した。
「ずっと、疑問に思ってたんですけど、平山さんって、ホスト…とかなんですか」
「へ」
「なんか…格好からして…」
「いやいや、ないない。女たぶらかすなんて俺には向いてねぇよ」
「そっか」
私はチューハイを一口飲んだ。
「でも、世間に顔向けできない商売…だな」
平山さんはボソリと呟いた。おそらく、そのTシャツだって、手触りのいいカーディガンだって、ちょっとゴツいシルバーのネックレスだって私には想像できないくらい高いんだ。でも、平山さんの笑顔はそれに見合わないとても寂しいものだった。



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