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▼ 歪んだ愛

 ゲラゲラと下品な笑い声が、ガンガンと脳を揺さぶる。頭の左側がやけに痛みを訴えているのを堪えて、九条はうっすらと目を開けた。

「やっとお目覚めかァ? 生徒会長様」
「待ちくたびれるところだったぜ」
「オイ、ヤっていいんだよな?」

 会話の内容から察するに、どうやら最悪の事態であるらしい。抵抗出来ないように、両腕は頭上できつくロープで縛られている。その上、机の脚にでも括り付けられているのか腕を動かそうとしても動かずガタガタという音だけがするだけだ。
 その様子を見て、また複数の笑い声が響き渡る。一人の男が九条の顔を覗きこみながら、にたりと気持ちの悪い笑みを浮かべて話しかける。
 九条は心底嫌そうな顔を崩さず、目の前の男達を睨み続ける。普段であれば怯むはずの相手も、今は全く引く様子を見せない。寧ろこの状況下では、相手を煽る興奮材料にしかなっていない。

「床で寝る気分はどうよ? 散々アンタが見下してきた人間に見下される気分はどうだよ!」
「生意気してねーでさァ、大人しくしてりゃこうはならなかったかもしれねーのに」
「今ここで精一杯謝って許しを乞えば、気持ち良くはしてやるぜ、九条会長様」

 この綺麗な顔がどう歪むのか。それを思い浮かべたりでもしているのか、締まりのないにやけた顔をしている。屈んで顔を覗き込んできた生徒の顔へ、九条はぺっと唾を吐きかけた。
 生徒が唾を袖で乱雑に拭って、九条に怒りをぶつけようと構えた。が、九条を見てぞっと身の毛が弥立った。
 九条は笑っていた。口角を釣り上げて、馬鹿にしたように酷く蔑んだ目をして、九条はクツクツと笑っていた。明らかに不利な状況にあるのは九条である。それでも、余裕に満ちていた。

「気安く触ってんじゃねぇよ、クズ」

 バキッ、と拳が左頬を弾く。鉄の味が口内を犯す。
――何を今さら恐れる必要があるんだ。
 雑魚を相手に怯えることはない。如何なる時も冷静に、頂点に君臨するに相応しい人間で在り続けなければならない。

「おい、顔は傷つけんなよ」
「わりぃわりぃ、あんまりムカつくこと抜かしやがるからついカッとなっちまった」

 ブチッ、ブチッ、と性急に服を肌蹴させられる。無駄なく引き締まった上半身が露わになると、目の前の男たちはごくりと唾を呑みこんだ。もう彼らの頭の中には、九条に突っ込んで腰を振りたくり、欲を満たすことしかないらしい。ズボンのベルトもあっさりと引き抜かれ、下着ごとズボンを下ろされた。
 幾つもの手が、ベタベタと九条の身体を這いずりまわる。胸、腹、腰、足、さらに性器を直接握り込まれても、九条は不快だと思うだけで反応を示さなかった。

「汚ぇ手で触んな、気持ち悪ぃ」

 揺らぐことのない、鋭く突き刺すような瞳。それは、恐怖による強がりではなく、侮蔑と嫌悪で塗り固められている。
厭らしく笑う口元から発せられる音もまた、非常に鋭利で、容赦なく相手の心を抉っていく。

「男の裸見ただけで興奮するとか、どんだけ溜まってんだよ。お前ら童貞か?」
「黙れッ」
「挑発に乗んなよ、さっさとヤろうぜ」

 九条の脚を押さえるように跨っている男が、他の男を宥めつつ、左右に大きく九条の脚を開く。もう一人がビデオカメラを片手に九条を捉える。

「準備オッケー」

 その合図とともに、残り一人がローションを九条の股間にぶちまけた。冷たさにぞわっと鳥肌が立つ。それをビデオカメラ越しに見ていた男がケラケラと笑いながら指摘する。

「冷たいままぶっかけたらかわいそうじゃん」
「すーぐ温かくしてやるから待ってろよ会長様」

 ローションをぬちゃぬちゃと指に絡ませ、容赦なく九条の後孔に突き入れた。引き攣るような鋭い痛みが九条を襲い、反射的に上へ上へ逃れようともがく。が、押さえつけられていてそれは叶わない。
 殴られた頭もズキズキと痛みを訴えており、思考能力が鈍る。この状況を打破する解決策が見つからないまま、為す術なく犯されるしかないのか。

「あれ? 大人しく犯される気にでもなった?」
「そりゃないだろ、何考えてんのかなぁ? 逃げようとしたって無駄だからな」
「そーそー、ここまで探しに来る奴なんていないいない」

 品のない嗤い声を発している男達の会話の内容から察するに、やはり全く人が来ない場所に居るらしい。ぐったりと意識を失っている九条を運んでいても、誰にも気づかれないように移動するには、あの場所から裏道を通って校舎に入るしかない。それでも、完全に人が通らないルートとは言えないので、誰にも見つかっていないということはないはずなのだが。
 生徒会の役員――鈴宮なら、帰ってこない九条に異変を感じ、風紀委員に連絡を入れるかもしれない。
『今の九条はさ、人間らしくていいよ。嫌いじゃない』
 そう言った鈴宮を、生徒会の役員達を、九条は信じてみようと思った。
『俺を選べよ、九条愛知』
 もし、あれだけの仕打ちをしてもまだ、天久が九条の元へ来るのなら。それで、まだ、戯言をぬかしてくるのなら。
――その時は、その戯言を聞いてやろう。
 九条は例え誰も助けに来ることがなかったとしても、自業自得だと諦める覚悟が出来ていた。数多く支持を集める一方で、数多く恨まれるようなことをしてきた。こうなることは予測していた上に、天久にも散々注意されていた。
 あれだけ注意をしていて、無様に犯された九条を見たら、天久はどんな顔をするのか。怒るのか、悔しがるのか、それとも嗤うのか。
その考えの先にあるのは間違いなく興奮であった。



 ガツガツとむやみやたらに奥を抉られる。その行為に快感は全く見い出せない。愉悦に満ちた表情で必死に男がへこへこと腰を振っている姿が滑稽だと眺めていた。

「搾り取られそ……、あー……イく、イくっ」
「……っ、ぐ、……は……」

 生温かい感触が胎内でビクビクと震えながら迸りを叩きつける。萎えた性器をずるりと胎内から出て行ったと思えば、すぐに別の猛った性器がミシミシと入り込んでくる。

「ちんこ爆発しそーなんだけど。さっさと代わってくれよ」
「上のお口にでも突っ込んどけよ」
「だって噛まれそうだし」
「オナって顔にぶっかけてやれば?」

 先走りを滲ませている赤黒くグロテスクなペニスが、九条の頬をペチペチと叩く。くちゅくちゅと竿を擦る音が九条の耳を埋め尽くす。
 ひたすら自分が気持ち良いように九条を揺さぶる男は、何の反応も示していない九条の性器へと手を伸ばした。

「会長様も気持ち良くさせてやるよ」
「はっ、ちんこ触らねぇと気持ち良く出来ねぇのかよ、ド下手糞」

 痛みなら、ただひたすら耐え切れば済む。が、快楽へ訴えかけられればひとたまりもない。

「ケツ犯されながらちんこおっ勃ててる会長様の映像がうっかり流れちゃったりでもしたら、大変なことになるよなぁ?」

 また、胎内で精液が吐き出される。九条の顔にも亀頭を擦りつけるようにして、ビュルビュルと鼻につくイカ臭い白濁液が吐き出された。ドロリ、と大量に出された液体が頬を滑り落ちていく。

「いいツラしてるぜ、会長様」

 何度も貫かれ、穢されようと、それでも、九条は驕慢な態度を崩すことはなかった。性器を握られ、無理矢理快感を引き出されても、弱った姿を見せようとはしなかった。



何十分、何時間、この行為がなされているのか曖昧になってきた頃だった。

「九条!」

 聞き間違えることのない声。幾度もこうして九条を呼んでいたのだ、嫌でも耳に残っている。

「どこにいるんだ! 返事しろ!」

 九条を犯していた男達が九条の口を塞ぐ前に、九条はありったけの声量で叫んだ。

「さっさと来やがれ! 天久!」

 その直後、蹴破られたドアの先。怒りを纏った天久の姿がそこにあった。

「そいつを返してもらおうか」

――まだふざけたこと言ってんのか。
 天久の姿を確認した途端、九条は無意識の内に笑みを浮かべていた。男達が次々と、天久に殴り飛ばされて沈んでいく。天久はあっという間に全員を床に転がし、ビデオカメラを壁に叩きつけて大破させた。

「後は任せろ」

 天久の体温に包まれる。ずっと張り続けていた気が緩み、意識が遠のいていった。





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