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▼ 愛よりも 03

 天久がどれだけ後悔しようとも、自分に非は無いと宣告する。それは、天久に対して言ったのか、自分自身に向けて言ったのか。
 温かさを知ってしまうのが、誰かに依存してしまうのが、何よりも堪らなく怖いのだ。そうならないように、九条が食えない顔をして、するりするりと誰の手にも捕まらないようにしていることを――その理由も含めて、天久は知っている。

「あぁ、そうだな」

 だからこそ、天久は九条に対して、締まりのない笑顔を向けた。初めて、九条からパスを渡されたのだ。
 例え九条が天久に暴力を振るおうとも、罵声を浴びせようとも、その対象が自分であるならばそれでよかった。九条の綺麗に澄んだ目が、天久を、天久だけを映している。

「何笑ってんだよ気持ちわりぃ」
「少しは気にしてもらえてるようだし、そりゃあ嬉しくてニヤけても仕方ねぇだろ」
「……頭イカレてんじゃねーの?」
「本気だって言っただろ」

 これ以上、話を掘り下げたところで時間の無駄だと判断した九条は、隣にある天久の部屋へなだれ込んだ。ベッドへ天久を突き飛ばし、さっさとベルトを抜き、前を寛げる。

「俺が突っ込めるように準備しろ」

 だらりと垂れたままのペニスを、天久の目の前に突き付ける。準備をしろ、ということは、九条のモノを勃起させて、尚且つ、アナルを解さなければならないのであろう。
 天久はベッドの横に置いてある収納棚の引き出しから、新品のローションボトルを取り出した。ベッドに九条を座らせて、天久はその股の間に座り込む。ボトルの蓋を開けて右手いっぱいに中身をぶちまけると、そのまま右手を後ろへ回した。アナルの周りに叩きつけるようにローションを塗りつけ、ぐちぐちと、人差し指をこじ開けるように固く閉ざされているアナルへ這わす。
 それと同時に左手で前にある九条のペニスの竿部分を緩く握り、先端を口に含む。汗臭さと僅かな苦みが、あの部屋で誰かと行為に及んでいた後であることを如実に伝える。
 が、九条と誰かによる匂いから、九条と天久による匂いへと、今から塗り替えるのだから何の問題もない。今、この時間は、九条は自分のものだと主張するように唾液を絡める。

「んっぐ……!」
「何に興奮してんだよ」

 前触れもなく九条に腰を突き出され、少し硬さを持ち始めたペニスを喉に押し込まれて、天久は思わず仰け反った。そのまま反射的に九条のペニスから口を離すと、九条はクツクツと喉を鳴らして笑った。

「なぁ、ケツ弄りながら俺のちんこしゃぶって興奮してんの? それとも、実はその見た目でネコだったりすんの?」
「受け身は九条が初めてだし、九条に触れて興奮しない方がおかしいだろ」

 天久のペニスはしっかりと芯を持ち、平常時でもあった存在感がより一層増している。いつも適当に抱いている親衛隊の生徒なら、くねくねと恥らいながら耳障りな甲高い声で大袈裟にアンアン喘ぐのだが、天久には恥らいもなければ可愛げもない。
――そういう奴が、みっともなく泣いて崩れるところを見たい。
 何をしたら、この男は陥落するのだろうか。どこまでやれば、嫌いだと言ってくれるのか。
 天久の唾液で濡れそぼったペニスを、再び天久は頬張った。時折いたずらに重くぶら下がっている陰嚢も舌で転がすように刺激され、気持ち良いか悪いかで問われれば、間違いなく気持ち良い刺激が与えられた。相当慣れているのか、単に呑み込みが早いのか。どちらにせよ九条のペニスはギンギンに張り詰めている。

「ケツこっちに向けろ」

 ぐちゅぐちゅ、と未だ抜き差しを繰り返していた天久へ向けてそう命令する。天久が後ろ手で解していたので、どれぐらい拡張されたのかは、天久にしか分からない。
 しかし、十分に解せていなかったとしても、待つつもりは一切なかった。

「泣いて喜べよ」

 ぐちり、と無理矢理こじ開けるように凶器を刺す。天久の背中がしなるのを見て、九条はニィっと口角を上げた。ギチギチと痛いくらいに締め付けてくるナカを蹂躙する。奥まで一気に貫く。結合部へ視線を落とせば、鮮血が滴り、真っ白なシーツを赤く染めていた。
 天久から制止の声が一度も上がっていなかったが、今、どんな顔をしているのか。別に気に留めることでもないとは思ったものの、そう滅多に弱った姿を見れる相手でもないのだから、弱みになるものを握っておくのも悪くない。そう自分に言い聞かせて、九条は天久の足を掴んでひっくり返した。
 まだ繋がったままの状態での暴挙に、天久はぐっと身体を反らした。

「はぁ……、っは…は、ぁ……」
「痛いか?」

 必死に息を整えようとしている天久へ、九条は笑みを携えたまま問いかける。汗でべったりと額に貼りついた前髪の間から覗く目は、ぼんやりと天井を見つめていたが、やがてゆっくりと九条に向けられた。

「っ!」

 ふわり、と柔らかく目を細められる。天久は痛みに怒ることも、泣くことも、悲しむこともしなかった。弱ってすらいない。ただ、嬉しそうに愛おしそうに微笑んでみせたのだ。

「好きなだけ、犯せよ」

 そう言って、九条を力いっぱい抱き締めて。
――……バカなんじゃねぇの。
 どうして天久が拒絶しないのか、九条には訳が分からなかった。はっきりと意見が言えない人間じゃない。本気で抵抗すれば、なんてことないはずだというのに。

「やっぱり、お前なんかくたばっちまえ」

 天久を引き剥がし、九条はひたすら天久に腰を打ち付けた。歯を食い縛って耐え続ける天久を一切見ないようにして、がむしゃらに、天久を使ってオナニーでもしているかのように。
 ギシギシとベッドのスプリングを軋ませて、ひたすら九条は天久を犯し続けた。



 トロトロと零れ出している、赤みのある白濁液を無心で見つめる。窓の外はすっかり日が落ち、暗くなっている。
 天久は犯された姿を晒したまま、穏やかな寝息を立てている。結局、天久が快感を拾うことはなく、陰茎はくったりと萎えて揺れているだけであった。
 痛みに悲痛な声を上げそうになるのを必死に耐えていたのであろう。左手の拇指球の辺りには歯型が残ったままで、ところどころ血を滲ませている。

「なんで俺を選んだんだよ、見る目ねぇな」

 渇いた声で嘲笑混じりに、ぴくりとも動かない天久を揶揄する。最後まで天久は頑なに九条のことを突き飛ばそうとはしなかった。

「お前が俺のことを愛そうとしても」

 ぽつり、と聞こえていないのをいいことに本音を溢す。

「俺はお前を愛せない」

 天井を見上げて、これ以上溢れてしまわないように。滲んだ世界を振り切るかのように乱暴にシャットダウンした。





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