俺様 | ナノ


 04



「失礼すんぜー……って何やってんだ? お前ら」
「こらっ京哉! ちゃんとノックしてから入らないと駄目でしょう!」

 恢斗が何とか瑛の機嫌を直そうと、アップルパイを持ってきたところにやってきた突然の訪問者――朝霧京哉は、誰よりも制服を着崩しているが、泣く子も黙る鬼の風紀委員長として有名である。
 性格は瑛を上回る俺様っぷりで、喧嘩の強さは桁外れである。
 京哉の後ろから注意をした、儚げな印象を与える華奢な彼は藤咲霞。風紀副委員長であり、たびたび暴走する京哉のストッパーである。
 ちなみに、親子のようなやり取りは日常茶飯事である。
 京哉は、メイド服を着た瑛に目を止めた。

「……楽しそうなことしてんじゃねぇか」

 獲物を見つけたと言わんばかりに、口角を上げた京哉は、瑛の所まで行くとひょいと横抱きにした。所謂、お姫様抱っこである。

「なっ……何しやがる! 降ろせバカ!」
「ちゃんと菓子以外も食ってんのか?」
「話を聞け!」
「暴れんなよ生徒会長様……いや、今はメイドさんか?」

 くくっと笑う京哉に、瑛は羞恥やら怒りやらで顔を真っ赤にした。瑛が実力行使に出る前に、それを見越していたのか京哉は瑛を降ろした。
 急に降ろされて呆気にとられる瑛の隙を見逃さず、京哉は思い切り瑛のスカートを捲り上げた。

「なんだ、下着は男物のままか」
「なっ……」
「やっぱいい尻してんな、下着も見繕ってやろうか?」
「黙れこの変態野郎!」

 右足を軸にして、背後にいる京哉へ向かって容赦なく回し蹴りを放つも、すんでのところで躱されてしまった。

「あっぶねぇな」
「避けてんじゃねーよ」

 一発触発の二人の間に、スッと手が差しこまれたかと思いきや、そのまま瑛を後ろへと押していく。そしてさらに前に割り込んできたのは那智、瑠伊、結伊、恢斗の四人だった。

「勝手に瑛に触れないでいただけますか? 風紀委員長」
「あっきーは僕らのなのー!」
「瑛が嫌がっているだろう朝霧」

 敵対心を露にする彼らに睨まれても、京哉は全く懲りていない。食えない笑みを浮かべたまま引き下がる気配はない。

「……風紀が生徒会に何の用なわけぇ?」

 瑛を必死に抑えながら、夏希が京哉に尋ねれば、京哉は霞から受け取った紙をひらひらと振る。

「生徒会の書類がこっちに紛れてたからよ、わざわざ、俺が届けに来てやったんだよ」
「京哉、そんな言い方しないの!」
「からかってみただけだ。しっかし、生徒会がこんなおもしれぇことすんなら風紀も仮装するか?」

 その瞬間、力勝負で負ける夏希が瑛を抑えていられるはずもなく、瑛が京哉に殴りかかった。が、容易く受け止められ、その手にちゅっとキスをされた。

「当日騎士の格好でもしてやろうか、守ってやるぜ瑛ちゃん?」
「……っるせぇ! さっさと帰れ変態!」
「はいはい、すぐ挑発に乗っちまって可愛い可愛い。書類はここに置いとくぜ。それじゃあ帰るとするか」
「もう、京哉! ……本当にお邪魔してすみませんでした。当日楽しみにしてますね」

 そう言い残して、京哉は追撃が来る前に去っていった。掻き乱すだけ掻き乱して引き返していった京哉を、霞も慌てて追って生徒会室を出ていった。

「何様だあの野郎! 俺はもう着替える、マジで胸糞悪ぃ」

 瑛はずかずかと、奥の仮眠室に入っていく。ひびが入るのではと心配になるぐらいに、勢いよく扉が閉められた。

「ありゃりゃ〜、瑛完全にご立腹じゃ〜ん」

 夏希が心配している横で、那智は拳を握りしめている。
 
「瑛に手を出すなんて、あの変態は一度闇に葬るべきですね」
「那智……葬るのは止めた方がいいんじゃないか?」

 不穏なワードが聞こえて恢斗は那智を宥めようとしたが、シャツをくいくいと引っ張られて後ろを振り返った。恢斗と目が合った途端に、瑠伊と結伊は可愛らしい満面の笑みでグッと親指を立てた。

「カイ兄大丈夫だってーキリっちだしー」
「ちょっとのことじゃビクともしないよー」
「キリっち? 朝霧のことか。……それって理由になってないんじゃ……」

 困惑している恢斗の肩を、夏希がぽんと叩く。

「まぁまぁ、細かいことは気にしないの〜。俺らもサイズ問題なかったら着替えよっか〜」



 生徒会室で京哉抹消計画が進行していた時、本人は霞に説教されながら風紀室へ向かっていた。風紀室に帰る途中には少ないながらも生徒はいるが、近寄ってくる猛者はいない。
 遠巻きに見ている生徒たちは目の保養で見ている隠れファンもいるが、大半はまた何かやらかしたんだなと温かい眼差しで見ている生徒と、よくあの人を叱れるな、と霞への尊敬の眼差しを向ける生徒だ。

「京哉、瑛君にあんなことして嫌われても知らないよ?」
「俺が嫌われるわけねぇよ。真っ赤になって可愛かったじゃねぇか」
「怒ってたんじゃ……」
「しかし、アイツ手加減しねぇな……俺じゃなかったら直撃してただろあの蹴り」
「……瑛君も大変だなぁ」
「生徒会の連中には可哀想だが瑛は俺のだ。霞、生徒会がやるならうちも仮装やるか」
「……うん、もう勝手にしてよ。おかしいな、京哉は賢いはずなんだけどな……馬鹿に思えてきた」

 上機嫌な京哉と、もはや何も言うまいと聞き流し続ける霞は、注目を集めながら風紀室へと消えていった。
 ちなみに、京哉はそのあと歓迎会まで瑛に「来るな変態」と徹底的に避けられていた。







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