俺様 | ナノ


 01



 五月に入り、ゴールデンウィークに帰省していた生徒達も帰ってきて賑わいを取り戻しつつある。
 そんな中、瑛は理事長に呼び出されていた。

「話って何ですか?」
「実はね、編入してくる子がいるんだよ」

 理事長はにこりと微笑み、瑛に編入生の詳細が書かれた書類を渡した。人当たりの良さそうな、と言えば聞こえはいいが、理事長が瑛に向けて笑みを浮かべる時は、大抵碌でもない案件を押し付ける時なのだ。

「微妙に来るのが遅いっつーか、そもそもそんな制度本当にあったのかよ……」

 訝しみながらも瑛は書類を受け取り、さっと目を通していく。

「僕の甥なんだけどね。試験はほぼ満点だから別に支障はないし、生徒会役員の子に明日、門まで迎えに行ってほしいんだ。広くて迷っちゃうと思うからね」

 瑛は理事長へ視線を向けた。身内だから贔屓する、なんて馬鹿な真似でもするつもりだろうか。今の理事長のお願いは、はっきりといって無駄なのだ。

「……広くても門からここまで真っ直ぐ来て上に上がるだけで、迷うわけがないのでは?」
「方向音痴なんだよ。地図を渡しても意味をなさないくらい。あと、ものすごくマイペースだから時間通りに来るかも分からない」

 それが本当であるなら非常に手のかかる生徒であるし、嘘でも理事長という権力を振りかざしてくる厄介な生徒だ。

「ふぅん、面倒な奴っすね。しかも髪ぼっさぼさ……」

 思わず本音を口に出してしまったが、そういう反応をされるのは想定内だったのだろう。特に咎められはしなかった。
 この対応を見る限り、その甥がどうかはさて置いて、少なくとも理事長は贔屓するつもりはないと見ていいだろう。
 それよりも、だ。写真に写っている編入生――煌海碧は、どうしたらそうなるんだと思う程ぼさぼさの髪だった。顔が口元しか見えない。方向音痴より先に髪型をどうにかした方がいいのでは。そう思いはしても、そこまで面倒を見る気はさらさらないので、瑛も深く追及はしなかった。

「あ、そうだ。那智君に迎えに行ってもらえるといいな」
「那智?」

 まさかの名指しで案内役の指定が入るとは思っていなかった瑛は、思わず聞き返していた。

「しっかりしているし、恢斗君でもいいんだけど朝練があるだろうしね」
「俺は役不足だとでも?」
「君は忙しいだろう? 配慮したつもりだったんだけど」
「それは、お気遣いどうも。……頼んではみますよ」

 わざと棘のある言い方で理事長に返して、瑛は理事長室から出ていった。実際、那智に頼んでみても引き受けてくれるかは微妙なところだ。しっかりしてはいるが、コミュニケーション能力でいえば恢斗の方がいいだろう。

「まぁ、あいつが断れば俺が行けばいいだろ」

 案内するだけだろう、と深く考えず、瑛は生徒会室へ向かった。
 一方、瑛が出ていった後、理事長はペンを走らせていた。

「王道展開は無いだろうねぇ。碧君は人類皆友達キャラじゃないし、やっぱり瑛君総受けだね」
「私はハッピーエンドならオールオッケーよ、っていうか歓迎会でメイドにさせたの誰よ! よくやった!」
「あ、深雪さんそこトーンお願い」
「はーい、これ終わったら私仮眠しますね」

 鍵のついた机の引き出しから原稿を引っぱり出して、二人は入稿締め切り直前の追い込みに入っていた。普段の優雅さも上品さもない。そこは修羅場だった。理事長達はちゃんと仕事もしている、はずだ。


 理事長室から生徒会室に戻ってきた途端に、瑛はやたらと圧がある那智の笑顔に出迎えられていた。

「用件は何だったんですか?」

 瑛は恐怖で顔が引きつりそうになるのを堪えながら、先程の編入生の件について話した。

「瑛、このぼさぼさは新しい生き物ですか?」
「「本当にぼっさぼさだー」」
「っ……!」
「人それぞれだがこれはなぁ……、夏希? どうしたんだ?」
「え? あ、いや、それで理事長から迎えに行ってほしいとか言われたの〜?」

 僅かに動揺を見せた夏希は、それを誤魔化すように瑛に尋ねた。

「あぁそうだ。那智に明日迎えに行ってほしいらしい」
「……随分急だね。しかも僕?」
「理事長が名指ししてたぜ。しっかりしてるからとか、恢斗は朝練があるから外しただとさ」
「……分かりました。書類期限が近いものは終わらせておいてくださいね」

 渋々といった感じで那智は了承した。
 瑛と素性の分からない編入生を、二人きりにするのは何が何でも許せない。だからといって、恢斗以外の他の役員達に任せるとなると、ちゃんと案内が出来るのか不安になる。
 ならば自分が行くしかないだろう。消去法で、那智には引き受けるしか選択肢がなかった。







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