ニコイチ | ナノ


 Dream?Real?



 夜の0時を過ぎた頃。一夜は横になっていた体を起こし、隣へと視線を移した。すぅすぅ、と規則正しく寝息を立てて眠る三森を見る。
 二人とも一糸纏わぬ姿でベッドに入っている、と言えば、情事を思わせるだろう。
 しかし、いつもとは勝手が違った。先程までの行為を振り払うようにガシガシと頭を掻き、一夜が起き上がった為に捲れた三森の毛布を掛け直す。
 横になって再び三森をじっと観る。朝から三森がどこか挙動不審で、避けられていたのを聞き出すだけのはずだった。
 それが、好奇心とは恐ろしいもので、赤くなった三森の目元が、先程まで行われていた行為の確かな証拠となっている。幼い子どものように泣きじゃくって、イヤイヤと過ぎた快感に首を振り乱す三森の姿がフラッシュバックする。

「チッ……」

 一夜は三森に背を向けて、すっかり覚めてしまった目を無理やり閉じた。脱衣場から聞こえてくる洗濯機の音が、やけに煩く聞こえた。



*****



 いつもなら、チャイムが鳴るギリギリに教室に入る一夜へ、真っ先に三森が眩しい笑顔と共に挨拶しに来るはずだった。
 ところが、駆け寄ってくる三森の姿はなく、一夜はまっすぐ自分の席へ向かい腰を下ろした。
――アイツ今日は休みなのか?
 そう思った矢先、息を切らして教室に駆け込んできた三森の姿が目に入った。クラスメイトから寝坊かとからかわれながら、一番後ろの窓際に居る、一夜の隣の席へと座る。
 汗をタオルで拭っている三森を見ている小柄な生徒達は、かっこいいとキャアキャア騒がしく色めき立っている。

「はよ、遅かったな」
「おはよ……」

 珍しいこともあるものだと、一夜から挨拶の言葉をかける。疲れた様子で返事をする三森だが、一夜と目が合った途端に、じわりと顔を赤くして目をさ迷わせた。挙動不審な三森に、一夜は首を傾げる。

「何かあったのか?」
「な、何でもない!」

 勢いよく否定され、一夜はきょとんと三森を見つめた。一人で勝手に混乱している三森に、一夜は冷静に質問をする。

「本当に何もないのか?」
「……うん」
「なら、目を合わせろ」
「……っ」

 三森は嘘を吐くのが下手なのだ。決して合わせようとしない視線に加え、会話のテンポが悪くなる。
 様子のおかしい三森が気になったが、担任の教師が教室に入ってきた為、一夜はそれ以上詮索することを止めた。



「一夜、もう昼休みだよ」

 軽く肩を揺すられ、うっすらと目を開く。まだ残る眠気を振り払い、鞄を掴んで立ち上がる。
 くあっ、と欠伸をする一夜に、三森は午後からはまたサボるのだろうと苦笑いを浮かべた。教室に来てもほとんどを寝て過ごしているので、然程変わりはないかもしれない。
 一夜は三森が付いてきているのを確認して、階段を下りる。今日は天気が良いので、裏庭のお気に入りのベンチへ向かうようだ。

「あずき、大福」

 目的地には、すでに先客が居た。一夜が名前を呼べば、丸くなっていた体を伸ばし、一夜の元へ擦り寄ってきた。
 一夜は鞄の中から、お手製のお弁当とあずき達用のごはんを取り出す。

「今日は鮭だぞお前ら」

 にゃあ、と嬉しそうにパクパクと頬張るあずき達を見て、一夜は柔らかい笑みを浮かべた。いつもこの嬉しそうな一夜の姿に、三森は癒されている。

「三森、ほらよ」
「ありがとう」

 にこにこと笑顔でお弁当を受け取る三森は、やはりいつもの三森で、一夜は朝のことを気にしないことにした。
 こうして一緒に居る時は、三森が話題を持ち出して、一夜が相槌を打つことがほとんどである。昨日の部活ではこんなことがあった、テレビでやっていたこの番組が面白かった等、一夜はよくネタが尽きないものだと思っていたりする。

「そういえばすっごい夢見て……」

 そこで突然喋るのを止めた三森に、一夜は怪訝そうに三森へと視線を移した。その視線に気づいた三森が、慌てて話題を変えようとするが、一夜が遮った。

「朝も、変だったのはその夢の内容に何か関係あるのか?」
「そう、だけど、そんなに大したことじゃないから……」
「そうは見えない」
「あっ! ほら、もう昼休み終わるから! 俺、教室戻るよ」

 ビュンと持ち前の俊足で走り去った三森に、一夜は逃げたなと溜息を吐いた。こう挙動不審になられては、気にしないでおこうと思ってもそうはいかない。
 何が何でも聞き出してやろう。そう決めて、一夜は部活が終わる時間まで、あずき達と昼寝をしようと目を閉じた。



「よぉ」
「一夜……」

 部活を終えて帰ってきた三森を待っていたのは、見間違うはずもない一夜だった。スーパーの袋を持っていることに三森が気づくと、一夜にさっさと開けろ重いと急かされた。
 部屋に入れば三森の同室者である谷川が、自室からひょっこりと顔を出した。

「おかえりーハヤタ、って月島も一緒だったのか」
「ただいま、前で待ってたみたいで」

 三森の言葉に、谷川は笑った。

「なんだよー、言ってくれたら中入れたのに」
「さっき来たとこだったからな、谷川も飯食うか?」
「やりぃ! ちょうど食堂行くか迷ってたんだよなー」

 夕飯が出来上がるまでに、三森は汚れた服を洗濯機へ放り込み、風呂へと向かった。もしかしたら、一夜に気を遣わせてしまったのかもしれないと申し訳なくなりながら、三森はぐるぐると考え込んでいた。
 風呂から上がり、リビングへ向かえば、すでにおいしそうな匂いが漂っていた。

「もうすぐ出来るから、ちゃんと髪乾かせよ」

 そんな一夜の世話焼きっぷりに、ゲームをしていた谷川は噴出した。

「月島ホントおかんみたいだよな」
「お前らがだらしないだけだろ」

 呆れたように返す一夜に、それもあるなとゲラゲラ笑いながらあっさりと肯定する谷川。だらしないと、谷川と一括りにされた三森は、苦笑いを浮かべる。
 それからしばらくして、出来上がった料理を皿に盛りつけ、机まで運んだ。

「いただきまーす!」
「いただきます」

 ガツガツと勢いよく食べ始め、あっという間にすべて胃の中に収まっていった。食器の片付けは三森と谷川で分担し、落ち着いた頃に、谷川は二人でゆっくりどうぞと部屋を出て行った。
 三森としては今、一夜と二人きりにされるのは勘弁してほしいところだったのだが。

「一夜、お風呂入れてあるし入ってく?」

 三森はとにかく平静を装いながら、一旦距離を取ろうと一夜へ提案する。

「おう」
「タオルも自由に使っていいから」
「さんきゅ」

 浴室へと向かった一夜にほっとしつつ、三森はソファーに座り項垂れた。このまま何事もなかったかのように乗り切ってしまおうか。
 しかし、朝も昼も一夜に何かあったのかと聞かれ、最早逃げ場はないようにも思えた。それに、自分が嘘を吐いてもすぐにばれることは解っている。どうするべきか悩んでいる間にも、浴室のドアがバタンと音を立てた。その音に、びくりと肩が跳ねる。

「風呂、さんきゅ」
「相変わらず早いよな……」

 一夜へ顔を向け、思わず目を逸らしてしまった。いつもの風呂上りスタイルであるパンツだけ穿いた格好は、今の三森にとっては普段とは違った意味で困るものだ。
 わしゃわしゃと頭を撫でられ、三森はバッと振り返った。

「三森、別に言いたくないなら言わなくていい。ただ、何か困ってるなら頼れ」
「……谷川はおかんみたいって言ってたけど、一夜はほんと男前だよな」

 このまま黙っていても疲れそうだ、と三森は一夜に夢の内容を話すことにした。





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