01
夏休みも終わり、賑わいを戻した桜ヶ丘学園の中庭にて。木蔭のベンチで三毛猫と白猫に挟まれ眠る、銀髪の生徒が居た。
この場所は彼のテリトリーであり、近づく者はほとんどいない。――月島一夜、彼のことを周りは一匹狼と呼んでいた。
常に一人で行動することを好み、馴れ合いを嫌い、売られた喧嘩には全て勝つ。意志の強さを感じさせる切れ長の碧眼に、程よく引き締まった体。所謂、美形と呼ばれる部類ではある。
しかし、不機嫌そうに寄せられている眉によって、彼を見る者には恐怖心の方が勝って、怖い印象を与えている。
そんな一夜の元へ駆け寄る、黒髪の生徒。
「いーちーやー」
低すぎず高すぎず、ちょうど良い爽やかな声は、静かな中庭によく響いた。彼の名前は三森ハヤタ、一匹狼だった一夜と唯一、学園内でまともに接している男だ。
釣り目とアホ毛が特徴的で、こちらもイケメンと持て囃される容姿をしている。一夜とは対照的に、よく表情の変わる快活な好青年で、クラスでも中心にいる。
「またこんな無防備に昼寝して……」
「教室、騒がしくて寝れるわけねぇだろ」
それに一人で昼寝はもうしてないしな、とすり寄ってきた三毛猫と白猫を優しい手つきで撫でる。
「あずきと大福が居るからって、大丈夫とは限らないんだから」
「今日眠いのは、昨日のお前がしつこかったからだ」
しれっと言い返す一夜に反撃出来ず、言葉を詰まらせた三森。カッと朱くなった頬を見て、一夜は更に追い討ちをかける。
「ナニ想像してんだよ」
「っ、とにかく! サボってばっかりで困るのは一夜だからな!」
「めんどくせぇ」
動かない一夜に、三森も負けてはいられない。夏休み前のテストも、その後でも散々苦労したのだ。
「……補習になったらあずきと大福に会える時間減るよ?」
「……行けばいいんだろ」
自分より優先されている猫達を羨ましく思いながら、今日も三森は一夜に振り回されている。