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 アクセント



 明衣は窮地に立たされていた。目の前には圭太、背後には壁。
 無表情がデフォルトな圭太だが、これは無表情より真顔と言った方が正しいだろう。トキメキではなく、恐怖で心拍数は跳ね上がっている。
 身長差故に下から見上げるようにして圭太に凝視されているが、圧がすごい。

「俺が寝てる間に、何しようとしてたんだ?」
「……いや、その……」

 圭太はTシャツを着ているだけで、下には何も纏っていない。スウェットもパンツも、圭太が昼寝をしていたソファーの横にくしゃりと散らかっている。もちろん、圭太が脱いだのではない。

「正直に話すなら、チャンスをやってもいいけどなぁ」
「まだ何もやってない!」
「まだ、なぁ? 後ろめたいことしようとしてたんだろ?」

 ぐうの音も出なくなった明衣の腕を掴み、圭太は寝室へと連れて行く。ベッドの前で圭太は手を離し、ごろりと仰向けに寝転んだ。
 圭太の行動の真意が掴めず、明衣はただその場に立ち尽くしたまま動けずにいた。自分が脱がしたとはいえ、圭太が隠そうともしないので目のやり場にも困って視線が泳ぐ。
 一向に動く気配のない様子に痺れを切らした圭太は、ぐっと上半身を起こした。明衣をベッドへ引っ張り上げる。

「何ぼーっと突っ立ってんだ?」
「圭太こそ、どういうつもりだ?」
「正直に話したらチャンスをやってもいいって言っただろ」
「……は、冗談だろ?」

 言葉通りに受け取って、本当にいいのか。明衣は真っ直ぐ圭太の目を見た。驚かないはずがない。何度も何度も、この誘いは断固として聞いてもらえなかったのだ。
 明衣には甘い圭太も譲らなかったから、こうして先手を打とうとしていたのに。

「めいちゃんの誕生日に、そろそろやってもいいかと思ってな」

 そう言ってスッと目を細めて、したり顔をする。明衣が唯一、敵わないと思う相手だ。今回もまた、圭太の方が一枚上手だった。
 口角を上げてにやにやと楽しそうに見ている。明衣の中で答えはもう決まっている。

「どうする?」
「俺だって、圭太を抱きたい」

 圭太は満足そうに明衣の首に腕を回すと、そのまま後ろに倒れ込んだ。


*****


「ん、ふっ」
「大丈夫か、圭太」
「俺のことはいいから、突っ込めるようになったら突っ込め」
「そんなことするかよ」

 後ろは全く感じないと話していた通り、明衣がどれだけ手を施しても圭太は変わらず違和感に眉を寄せるばかりだった。圭太にも気持ちよくなってもらいたい明衣と、早く明衣を満足させたい圭太。両者の想いと意地がぶつかり合う。

「おい、だから、もういいって」
「絶対に気持ちよくする」

 さっさと解して挿れたらいいと、圭太が触らせようとしなかった性器に手を伸ばす。

「そっちは触らなくていいって言っただろ」
「勃起させた方が前立腺で感じやすくなるから……まさか、それが嫌で後ろしか触らせないってことはねぇよな?」
「俺が尻で気持ちよくなれても無駄だ」
「ふーん? 散々俺のことは好き勝手しといて、圭太はこれっきりしか抱かせる気がねぇのか」

 明衣は一歩も引く気がない。こうなったら圭太が上手く丸め込むか折れるかだ。間を取るという選択にはならない。
 ただ抱くだけではなく、圭太を気持ちよくさせることに並々ならぬ執念をもっている。かなり説得するのは難しいだろう。
 いつまでもぐだぐだとするのも、圭太の性に合わない。今回は折れて、次回からは丸め込めばいい。

「誕生日だしな、分かった」
「随分あっさり許してくれるんだな?」
「俺の気遣いを無下にするのか?」
「……まぁいいか、気持ちよくしてやるから覚悟しろよ圭太」

 返事をする代わりに、圭太は抵抗を止めて身体の力を抜いた。



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