フォルテ | ナノ


 02



「あの、えーと……ご趣味は?」
「お見合いかよ」

 集会という名の魔王様無双を終えて、生徒会室では圭太が生徒会役員達に強引に明衣と友達になるようにコミュニケーションを取らせていた。背中を押さなければ、気まずい空気に誰も喋らない。そう判断しての圭太の行動であったが、やはり誰も明衣に話掛けようとはしない。
 明衣から話しかけるだけでは、結局、一方通行のままで今までと変わらない。
 しかし、かれこれ三十分は経っているというのに、全員が考え込んだまま一言も発さない。
 だから、圭太が副会長の桜野を指名し、何でもいいから話せと言った結果がこれだ。色々と明衣に対して尊敬、嫉妬する部分があるからこそ、普通にコミュニケーションを取れと言われてすぐに出来るとは思っていない。
 が、あまりにも下手過ぎる。これではいつまで経ってもぎこちないままで、卒業を迎えることになってしまう。

「めいちゃん、作戦変更だ。めいちゃんから質問しよう」
「分かった」

 何をするのが好きなのか。普段どんなことをしているのか。好き嫌いはあるのかどうか。
 思いつくものを次々と明衣が質問しては、役員達がそれに答え、明衣も興味があったり、知っていることに関してはどんどんそれを掘り下げて、より深い話をした。
 好奇心の強い明衣は、気になるものがあればすぐに調べて吸収する。その為、ジャンルを問わず、幅広い知識を持っている。

「何でも知ってるね、会長は」
「完璧すぎない?」
「何か弱点の一つでもないんですか」
「羨ましい限りだな」

 森宮、天満、桜野、福島がそれぞれ口にして、それまで黙って見ていた圭太の方へ視線が集まった。

「弱点も苦手なこともたくさんあるぞ」

 明衣が圭太の口を塞ぐより早く、圭太は明衣の腕を掴んで抑え込み、詳細を話し始めた。

「まずは歌うのが苦手、楽器も無理だな。スキップも出来ない」
「何勝手に言ってんだ圭太! ヒッ、あッ」
「めいちゃんが弱いのは耳、だな」

 イチャつき始めた二人に、余計な嫉妬をしなければよかったと後悔しても遅く、折角知りたかったことが聞けたというのに、全く嬉しくない。
 圭太はそうだ、何かを思い出したのか、明衣から離れてテーブルに置いていた容器を手に取った。
 それを見た明衣が顔を引き攣らせているということは、悪い予感しかしない。圭太は桜野にそれを渡して、食べたかったら食っていいぞと伝えた。

「これは……」

 蓋を開けて出てきた中身に、役員達は困惑の表情を浮かべた。何を作ったというのか。そもそもこれは食べても大丈夫なのか。
 明衣に助けを求めてみるも、首を横に振られて、明衣にもどうすることも出来ないのだと知る。
 桜野は容器を書記の福島に渡して、校内清掃しに行ってきますと言って、そそくさと生徒会室から逃げて行った。それに続いて森宮と天満も出て行こうとする。

「ちょ、まじかよ」
「ほら、今日一番大変なの福島だし、あげるよ」
「ファイトー」

 福島はもう一度容器の中を見た。やはり黒い物体と赤い半液状体の何かが入っている。項垂れる福島の姿を見て、圭太は明衣から離れて福島に声をかけた。

「頑張れよ」
「言われなくても、分かってる」

 その返事に圭太は笑みを一つ溢して、明衣を連れて生徒会室を出た。



「見た目がこれでもうまい可能性に賭けるか、見た目通りのやばい物体かもしれないことに賭けるか……」

 散々悩んだ挙句、福島は食べなかったらあの魔王様に何と言われるか、それを危惧して泣きながら全て食べ切った。
 福島はその後一週間、腹痛との戦いを繰り広げることになるのだが、この時の彼は食べ切った達成感でそこまで考えていなかった。




          *****



 二週間が経ち、学園内は大きく変わっていた。

「森宮、今日は生徒会の仕事すぐ終わるか?」
「昨日だいたい終わったし、終わると思うよ」
「じゃあ、バスケやるんだけど来ないか?」
「行く行く、頑張って早く終わらせる」

 生徒会をはじめとする親衛隊持ちだった生徒は、親衛隊が解散されたことにより、周りを気にせず誰とでも気軽に話せるようになった。
 親衛隊がなくなっても、その人のファンでいることには変わりなく、ただ好きな人が同じ人達が集まって、好きな所を語り合い、情報交換をするだけのファンクラブはひっそりと存在している。
 生徒会はきちんと機能するようになり、明衣と役員達もまだ多少ぎこちない部分はあるものの、最初に比べれば随分と打ち解けた。
 何より一番変わったのは、恵である。

「けいっ…じゃなくて、南波先輩! 昼飯一緒に食べていいですか!」
「うるさい」
「あ、ごめ、すみません」
「反省してるならいい」

 圭太から徹底的に上下関係を叩き込まれ、相手の話も聞くように躾けられ、以前のような騒がしく話の通じない面倒なタイプという印象が薄れてきたからか、恵を避ける生徒は徐々に減りつつある。
 言動に変化があるだけでなく、見た目にも大きく変化があった。
 圭太だけは恵と同室だったので、恵の素顔を知っていた。素顔のままだと襲われるから、と姉に言われて変装をしていたらしい。
 だからといって、あんなに変装感丸出しの恰好をさせては意味がないようにも思えるのだが、案外本気で変装とは思っていない生徒も多かったので、圭太は指摘することなく流していた。
 今は圭太や下僕たちによって、風紀委員にお世話になる生徒はほとんどいない。
 つまりは、恵がわざわざ変装する理由がなくなったのだ。

「めいちゃんと雫ちゃんもいるから、食べ始める時間が遅くなってもいいなら構わないぞ」
「大丈夫だ、……じゃなくて、です!」

 圭太と話している恵は、マリモと形容されていたごわごわの黒髪でもビン底眼鏡でもなく、さらさらのハニーブラウンの髪にぱっちりとした碧眼の、非常に顔立ちの整った容姿をしている。
 変装なしで迎えた初日は学園中がざわついていたが、圭太も明衣も普通に接していて、また、喋れば恵だとすぐに分かるので、騒ぎは数日で落ち着いた。
 誠司だけは変わらずハイテンションのまま、己の道を突き進んでいるが。
 圭太によってあっという間に、学園は正常な状態へと回復していった。





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