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 06



「自分また王様になんかやらかしよったやろ」

 圭太の元に雫から連絡が入り、二人は風紀室へと戻った。二人が風紀室に入るなり雫はやれやれと肩を竦めている。
 挙動不審な明衣を見て雫はすぐに気づきツッコミを入れたのだが、気づかなければよかったとすぐに後悔する羽目になる。慌てて窓に鍵をかけようとしたが間に合わず、何かがスパァアンと窓を全開にして転がり込んできた。

「俺様ドS平凡×俺様会長キタコレェェエエエ!」
「圭太! 窓から宇宙人が!」

 奇声を発しながら窓から入ってきたのは、葉っぱまみれの男だった。むしろ、草むらに隠れる為に葉っぱを着ていると言った方がいい。
 ガサガサもぞもぞと動く葉っぱ男を、明衣は風紀室から外に出て扉を盾に睨んでいた。真剣な表情をして宇宙人発言をしている明衣を見て、圭太は無表情ながらもどこか愉しそうな声色で明衣をからかいだした。

「めいちゃん、早く逃げねぇと葉っぱ宇宙人にやられるぜ?」
「ふおぉうっ! 美声! 噂通りっつーか以上の美声! やべぇハァハァ! そしてどうしてオレは宇宙人扱い? もしかして会長サマ天然キャラ!? っていうかめいちゃん!?」
「めいちゃん言うな! 圭太に近づいてんじゃねぇよ葉っぱ野郎! 燃やしてやろうか」
「嫉妬? ねぇ今のは嫉妬しちゃったの!? オレは既に萌えて燃えまくってるんだぜ! そしてお二人はラブってるの? そこまで見せ付けといてラブラブしてなかったらオレ泣いちゃう!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ彼ら、というより侵入者に、この後雫がキレたのは言うまでもない。



「いやぁ、さっきは取り乱してしまって申し訳ない」
「ほんまえぇ加減自重すること覚えたらどうや兄貴」
「ごめんやってぇ、許したって?」

 落ち着きを取り戻した葉っぱ男、広報部部長の猿渡誠司は見苦しかった葉っぱの隠れ蓑を脱いで正座していた。明衣も雫の兄だと分かると警戒を和らげた。
 しかし、見た目は雫に似て綺麗めな男前美形であるのに、不可解な言葉と異常なテンションで全てを台無しにしている彼とは、それとなく距離を置きたいと思っている。
 誠司は留年していて、雫より二つ年上である。頭が悪い訳ではなく、ただ単に生BLが見たい一心で居座り続けている。そんな彼の特技が情報収集で、大抵の情報はすぐに提供してくれる。
 ただし、彼らしい交換条件が色々と出される為、どうしても欲しい情報でなければ仕事で呼び出されない。そのため、広報部としての活動よりも、情報屋としての仕事よりも、自らの趣味に隠密に突っ走っている。

「で、久々の仕事依頼に張り切ったんやけど、本当にこれだけでよかったん? 他にも弱み握ったろうとか思わんの?」

 誠司からの確認に、圭太は問題ないと返した。

「これだけで十分だ、奴らは堕ちる」
「そう? じゃ、情報料として会長サマとちゅーしてるの見せてな!」
「は? や、圭太も何で近づいてきて……っ」

 角度を変え、何度も口付けては時折悪戯にくちゅり、くちゅりと舌を絡ませる。一瞬で淫靡な雰囲気を醸し出した二人に誠司は鼻息を荒くして詰め寄る。

「そのままもっと会長サマを攻めて!」

 圭太は一度口付けを中断し、スッと横目で誠司を見た。明衣の顔が見えないように隠し、圭太は艶のある声で誠司へ囁いた。

「今日頼んだ分とは別で欲しい情報があるんだが、どうだ?」
「その話乗ったるわ」
「話が早くて助かる」
「そこはお互い様やろ」

 自分にとってはよろしくない交渉が成立したのだと、気付いた明衣が圭太から離れるよりも早く、圭太は再び明衣を引き寄せ、するりと若干の反応を見せている明衣の股間へと手を滑らせた。

「んっ…圭太、ウソだろ、あ、待てっ……」
「見られんの、恥ずかしいのか?」
「当たり前だろ!」

 余裕綽々としているあの王様の翻弄される姿と甘い声を聞けただけでも満足したらしい誠司は、圭太の欲しがっているもう一つの情報を、明日の朝までにはまとめておくと約束した。

「雫ちゃん、ちょっと奥の仮眠室借りていいか?」
「ラブホとちゃうぞ、王様の抜くだけにしてや」
「もちろん」

 扉に耳を当て、音だけでも聞こうとしている誠司を風紀室から追い出し、雫は本日何度目かの溜め息をついた。

「なんでこうもキャラ強いヤツばっかり集まるんや……」

 疲れた、と言って肩を回しながら、雫は自分のデスクに向かい、大半が転入生絡みであるトラブルの報告書をチェックする作業を始めた。
 本当は二人が風紀室から出て行くまで、外に出ておきたかったのだが、もし、今は見回りに出ている委員達が帰ってきて鉢合わせでもしたら、パニックになりかねない。意識しないように、少しでも気を紛らわせようと集中しているからか、書類を片付けるスピードはいつもより快調だ。
 数十分ほど経ったのだろうか。ガチャ、と扉が開き、二人が中から出てきた。

「雫ちゃん、ありがとな」
「もう次は貸さへんからな」

 雫は二人と顔を合わせるのがやはり気まずく、手元の報告書に視線を落としたまま返事をした。雫の様子がおかしいことに気付いた圭太は、わざと外した内容で雫に話しかけた。

「ちゃんと手洗ったから心配しなくて大丈夫だぞ」
「別にそこそんな気にしてへんわアホ! 扉一枚隔てた向こうで友達がちんこ弄られてんのめっちゃ気まずいやん?」
「気にしてねぇから大丈夫だ」
「こっちが気にするわ!」

 ずれた回答をする圭太に思わずツッコミを入れて、雫はそのままの勢いで扉の前までズンズンと歩き、さっさと出ろと二人へ向かって言い放った。
 急に始まったボケとツッコミのようなやり取りに、唖然としている明衣を置き去りにして、どんどん話は進んでいく。雫は豪快に扉を開け放ち、圭太と明衣の背中をぐいぐいと押して、風紀室から強引に外へ出た。

「生徒会室行かなアカンのやろ? 余計な時間取ったんやから、はよせな騒ぐであいつら」
「そうだな」

 雫の意見に同意して、しかしその前にコンビニに用があると言って、圭太は二人に先に生徒会室近くまで行っておいてくれと伝え、陸上部顔負けの速さで走り去っていった。
 生徒会室へ行くには専用のエレベーターに乗って、エレベーターキーを兼ねている特殊な生徒カードを読み込ませなければならない。圭太に明衣か雫のカードを渡しておけば、圭太一人だけでも後から生徒会室に行けるが、圭太がいないまま生徒会室に入るのは躊躇われた。
 だからといって、全員でコンビニに行けば大騒ぎになることは目に見えている。
 それらを考慮しての選択なのだと明衣と雫は理解して、圭太の言う通りに、エレベーター前まで向かった。






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