▼ KEEP OUT
今日の占いは12位だった。だから何か悪いことが起こるかもしれない、とライは普段よりも気をつけていた。
もしかしたら、提出期限を過ぎている書類があるかもしれない。
生徒会室前の、あの無駄に豪華な階段で転んでしまうかもしれない。
筆箱を忘れて……あぁ、さすがにそれはない。だって昨晩も今朝も、ちゃんとフミが一緒に確認してくれたから。
あとは――。
「おい! そこのお前、誰だよ!」
「あ? マリモ…?」
よく分からないマリモに遭遇するなんて――。
いくら運勢が悪かったからとはいえ、こんなうるさいマリモに遭遇するなんて誰が予想出来るのだろうか。さっきから名前をやたらと訊かれるのだが、言ったら悪い予感しかしない。だからライは黙ったままだ。
どうしたらそんな大声でずっと喋っていられるのだろう、と興味深くはなったものの、そろそろ耳が痛い。それに、見た目も良いとは言えないマリモを見ているのはうんざりしてきていた。それを決して表情には出さないが。
今日起こる不運はこのマリモのことだったのか、とすっきりしたライは緊張の糸が切れ、急にうとうとと眠そうにマリモこと転入生の話を聞き流している。
あれこれといつも考えている所為で、ライは常に寝不足気味だ。本格的に眠くなり、フミのところに行こうと道を戻ろうとしたライは、マリモに思い切り腕を掴まれた。
ギリギリと、小柄な身体のどこにそんな力があるのだろうというくらい握りしめられ、ライは痛みに顔を歪ませた。
フミ以外には、ライの表情の違いがはっきりとは分からないだろう。
「いたい、離せ」
「お前が無視してどっか行こうとするからだろ!」
ライの腕を掴んだまま、ずんずんとどこかへ移動しようとする転入生に、ライが手を振りほどこうとした。
その瞬間、バキッという音が聞こえ、急に痛みがなくなった。
「フミ」
ふわり。ライが最も好きな香りに包まれる。
「大丈夫じゃねぇよな、ライ。おい糞マリモてめぇ何俺のライに手ェ出してんだ? あぁ?」
「暴力振るうなんてさいってーだ! それにオレはマリモなんて名前じゃね、」
「喚くなうぜぇ、お前はライを傷つけた。許されると思うなよ?」
フミとマリモが言い合っている間、ライは睡魔と戦っていた。フミの声は心地良く、安心するのだ。ましてや温かいフミの体温に包まれている今、ライは素直に睡魔に白旗を振るしかない。
フミに後は任せて睡魔に降伏したライが目を覚ましたのは、あれから五時間程経ってからだった。やっぱり抱きしめられたままで、ライが見上げてみれば、フミは不機嫌そうな顔をしていた。
「ライ、あれだけ急に寝たりすんなっつったよな?」
「俺が安心して寝れるのフミがいるとこだけなんだから仕方ねぇだろ、マリモは?」
「ライに害を及ぼしそうな奴だったから釘刺してやった。しばらく謹慎処分だな」
「そうか、助けてくれてありがとう」
「っ! あのなぁ、そこで笑うのは不意討ちだろ」
KEEP OUT
(二人以外の侵入は認めない)