▼ 英雄と呼ばないでください
気持ちの良い爽やかな朝のことだ。規則正しく寝息を立て、すやすやと夢の中にいる、とある青年がいた。
彼はさぞかしモテるであろう整った容姿をしている。が、急に襲い掛かってきた息苦しさと耳障りな音に、閉じられていた瞼がふるりと震えた。
「あら、芹チャンおはよう」
「またお前か……」
青年が目を覚ますと、けばけばしい化粧をしたオカマが青年に跨りながら鼻歌を歌っていた。
*****
芹という青年は、おんぼろアパートの一室に住む、ごく普通の学生であった。
しかし、ある日を境に非現実的な生活を送っている。
「今日は可愛いピンク色のバイブにしましょうねー」
オカマ、基、司令官が某猫型ロボットのように取り出したのは、何の変哲もないただの大人の玩具である。芹は別段驚きもせず、渋々といった様子で準備を始める。
ズボンと下着を脱ぎ捨て、棚から出したローションを使って、ぐちゅりと後ろを解していく。
そもそも何故オカマ司令官の言いなりになっているのかと言えば、芹がバイクでオカマ司令官の部下を轢いてしまったからだ。だが、轢いてしまったとはいえ、芹からしてみれば不可抗力だったのだ。向こうが急に飛び出してきて、避けきれずに軽く接触してしまった。なんでも、地球の平和を守る地球防衛隊の人らしい。
宇宙からの侵略者は多い為、地球防衛隊が存在していることは知っている。しかし、芹はそんな強そうな人が、事故で入院するものだろうかと疑問に思っていた。生身だったらまぁ無理か、と軽く流したが。
というのも、侵略者に対抗できる特殊な能力を持っている者のみが、地球防衛隊に入隊する資格を持つのだ。そんなに貧弱ではないと芹は思っていたのだが、やはり肉体的には人間なので物理攻撃には弱いのだろうか。
宇宙人は非常に強く、現在は防戦一方だと聞く。勝てる気がしないのだが、このオカマは出会ってからずっと芹の開発を熱心に行っている。尻の具合より地球の心配をしてくれと、芹は何度もオカマに言ったが効果はない。
「ほーら、さっさと解さないと痛いのは芹チャンよ?」
「わかって、る……っつぅの!」
カメラを片手に時間がないと急かすオカマ司令官に苛立ちながら、指を三本に増やしてさらに拡げる。忙しいんだから、と愚痴をこぼすオカマ司令官に、心の中で暴言を吐く。
前に一度逆らった時に散々な目に遭わされ、無駄口は叩くまいと口は閉ざしたままだ。ひたすら異物感に吐きそうになるのを必死に耐える。
「そろそろ良いかしら?」
その声を合図に、芹は指を引き抜いた。ヒクヒクと開いたアナルにあてがわれる無機質な玩具。
「んっ……、は、ぁっ……」
銜え込んだと同時に、カチリとスイッチの入る音がした。ヴヴッと体内で玩具が振動する。
芹が息を詰め、快楽を逃がそうとしている姿を見て、オカマ司令官は目を細めた。その時だった。突然、オカマ司令官が持っていた機械がビーッビーッと鳴りだした。
「んっ……?」
「……芹チャン、ここから南に行ったところに工場があるでしょう?」
「はっ……は、ぁ……」
「ここに敵が来るわ、今すぐ逃げなさい」
「……は?」
体内で暴れる玩具からの刺激に耐えている芹にそれだけを伝えて、オカマ司令官が謎のスイッチを押す。
すると、下半身だけ丸出しの情けない格好だった芹が、防護スーツ姿へと一瞬にしてパッと変わった。芹がぶつかってしまった男が着ていたものとそっくりな、黒いぴっちりとしたスーツだ。
「ちょ、……は?」
「敵は若い男の地球人を好んで襲ってるみたいなのよ」
「おい……色々突っ込みたいが、せめて……中の、抜けッ!」
「やだ突っ込みたいなんて! 芹チャンは突っ込まれる方でしょ」
気づけば愛用しているバイクに乗せられていた。ちなみに中にブツがまだ入ったままだ。人通りは少ないとはいえ、ふらつく運転の原因となっている容赦なく刺激を与えてくるそれに、芹は舌打ちした。バイクのエンジンによる振動でさえ、今の芹には脅威であった。
数十分程で古びた工場が見えてきた。ここまで来たものの、バイクから降り、窮屈そうに押し上げる熱に踞ったまま動けないでいた。
「まんまと引っ掛かったみたいだな」
「え……?」
目の前に居たのは人型ではあるが、ふさふさの耳と尻尾の生えた宇宙人。
――おいあのオカマ何やってんだバカヤロウ。
「やっと見つけたぞ」
「……ドチラサマデスカ?」
防護スーツを着ている所為で、本物と間違われている様だった。近づいてくる宇宙人に為す術なく、無理矢理立たされる。
その際にバイブが前立腺を押し上げ、芹は悲鳴にも似た嬌声を上げた。
「ヤる気満々ってか?」
「ちがっ……あ、あっ!」
「こんなにいやらしい匂いをさせて、違うと言うのか?」
「あッ、や、さわんな……!」
この後芹がどうなったかと言えば、男として大事なものを色々と失った代わりに、地球の平和を守った英雄の名を手に入れた。
今回侵略してきていた宇宙人は理想のパートナーを求めて、若い体力のある人間を狙っていたらしい。芹が接触した防衛隊員の能力は『回復』で、どんな怪我や疲労も眠ればすぐ治癒する珍しい能力で、さらにそれは人間へ譲渡することが出来るのだ。
オカマ司令官は敵の情報を知り、芹をわざと監視下に置き、頃合いを見計らっていた。それを聞いた芹がオカマ司令官を自慢のバイクでぶっ飛ばしたが、『頑丈』の能力を持つオカマにはまったくダメージがなかった。
今では地球防衛隊で一番の腕を持つ特攻部隊長『ライダー』として、地球の平和を守りつつパートナーとオカマからのセクハラに耐えている。
英雄と呼ばれる度に、芹は壁に額を打ち付けていた。
END.