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▼ クレマチス

「何度見てもやっぱりきれいな脚ですよね」

 やや興奮気味に話す彼は、極度の脚フェチである。黙っていれば目立つことはない容姿であるが、どうしようもないくらいに脚に執着を見せる。理想の脚の持ち主が男であっても、愛でないという選択肢はない。素晴らしい脚の前には、性別など関係ないと言い切った。
 そんな脚フェチである駒野に気に入られてしまったのが、生徒会長である春日井だ。生徒会長というと、お金持ちという印象を持たれがちではあるが、春日井は一般家庭育ちの普通の男子高校生である。ただ、見た目は美形と評される程に整っている上に、性格も男前で周りからのプレッシャーをものともしない。

 駒野のセンサーに引っかかってしまったのは、春日井の性格が男前すぎることが原因なのだ。
 駒野がいくら脚フェチであるとはいえ、脚の線が分かりづらいスラックス越しでは、理想の脚か否か判断をするには難しいものであった。体育の授業に出る為に、着替えるクラスメイトの脚を盗み見ることは出来ても、その他は見ることなど出来ない。
 生徒会長の春日井と平々凡々な駒野が同じクラスであるはずがなく、二人が出会ったのは、本当に偶然であったのだ。
 暑いからという理由で、Tシャツとハーフパンツにサンダルというラフすぎる格好で、寮の近くにあるスーパーに現れた春日井に駒野が遭遇したのだ。

「その美脚を人目に晒すような真似するの止めてください」
「暑いから仕方ないだろ」

 満面の笑みを浮かべながら這い寄ってきた駒野の姿は、今までで一番怖いと思ったと話していた頃が懐かしいと、脚を撫で回されながら春日井は現実逃避をする。
 親衛隊に制裁されても、春日井の脚がいかに素晴らしいものかを、親衛隊がもう手に負えないと白旗を振るまで熱弁していたと聞いた時は、非常にいたたまれなくなった。

「多少は我慢してくださいよー」
「俺は今お前に撫で回されているのを我慢している」
「気持ち良くなるように撫で回した方がいいですか?」
「いらないことはするなよ変態」

 せめてペディキュアだけ塗らせて欲しいと土下座され、春日井は渋々それを許した。
 紅く彩られた爪先は、思っていたより春日井の視界に映った。その度に、春日井の脳裏に駒野の手が自らの脚を撫でる光景や感触が呼び起され、ぞわりと身体が震えた。剥がれかけたペディキュアを指でなぞり、春日井は立ち上がった。

「会長の方から来るなんて珍しいですね」

 駒野の部屋に着くなり、春日井は靴と靴下を脱ぎ、足首を駒野に差し出した。きれいに塗られていた真紅のペディキュアは、ところどころが剥げて斑になっている。

「剥げた」
「そりゃあ、擦れたり、爪が伸びたりしてるんですから剥げますよ」

 するりと、駒野が春日井の脚の爪先から甲へ指を滑らせる。駒野は引き出しから道具を取り出し、一度すべて色を落とした。十分にきれいにしてから、また丁寧に紅く塗り直していく。

「大人しいですね、どうかしたんですか?」
「あんなに剥げてたら恰好つかないから塗り直させてるだけだ」

 顔を背けた春日井に、駒野はうっそりと笑みを浮かべた。仕掛けた罠に嵌まった獲物を逃がすまいと、駒野はまたペディキュアで印を刻むのだ。

「ほら、きれいに塗り直しましたよ」

 ペディキュアが薄れる度に、春日井が駒野の元へ戻るように。じわりじわりと染み込んでいく。もう既に、春日井は駒野の策略の中にいた。              



END.  


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