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▼ ぬくもりと恋心

 昨日から降り続いた雪により外は一面真っ白で、皆が楽しそうにはしゃいでいる。その様子を明石は暖かい部屋の中から見ていた。どうしてこんな寒さの中で、あんなに楽しそうに出来るのか。極度の寒がりである明石には甚だ疑問だ。
 見ているだけでも寒い、炬燵欲しい。でも、炬燵を買いに外には出たくない。そんなことを悶々と考えながら、明石は寒さにふるりと身体を震わせた。
 そういえば、昨日持ち帰った書類を生徒会室に持って行かなければならない。選択肢はどうやらなかったようだ。

「寒い……」

 明石は制服の上に袖の長いカーディガンとブレザーを着て、さらに毛布を羽織った。それから、マフラーと手袋とニット帽をすればなんとかなりそうだ、と明石はクローゼットを開けた。



 時を同じくして、三好は明石の元へ向かっていた。真冬という名前でありながら、極度の寒がりで有名な生徒会長様は、この寒さが続けばきっと部屋に籠りっぱなしになって不摂生な生活をするだろう。
 マフラー等の防寒具は、三好がプレゼントした物だ。長身ではあるが細身な身体をぎゅっと小さくしている明石の姿に加護欲を掻き立てられた三好が、明石の誕生日を祝う為に、何店も巡って選んだのだ。三好が想いを込めて選んだ物なのだが、明石はあまりにも自分が寒い寒いと言うので可哀想に見えたのだろうと思っている。
 贈られた防寒具は全て淡いピンク色で、ニット帽には天辺に大きなポンポンが付いていたりする。明石はこんなファンシーな物は似合わないと最初は突っぱねたが、厳しい寒さを少しでも凌げるのならそれぐらい気にしてはいられなくなり、今ではすっかり愛用している。その姿に、明石の親衛隊も三好の親衛隊も床を転げ回る勢いで悶えていた。
 その日を境に、明石は三好に懐いたようだ。周りは三好のことを、『三好春慶』の名前をもじってヨシヨシやよっしーと呼んでいる。が、明石は暖かい春が大好きだからという理由で三好のことをハルと呼ぶ。
 明石と三好が名前で呼び合うようになったことを知った時の両者の親衛隊は、感涙でハンカチを濡らし、この後めちゃくちゃ赤飯を炊いた。
 そもそも何故親衛隊の仲が良いのかと言えば、秋から冬の間は寒さで防衛力が無いに等しい明石を、毎回助けて回収していた三好の姿に明石の親衛隊が感謝していたのだ。明石親衛隊は、保護者のような目で明石を見守っているらしい。

「明石様が外に出ていらっしゃる!」
「嘘!? だって今日は雪降ってるんだよ?」
「とても可愛らしい……!」

 その親衛隊が三好の前方で、ざわざわと集まって一点を見つめている。そこにいるのは間違いなく明石だ。

「どうしたんだ真冬、今日は積もるぐらい雪が降っているのに」
「ハル!」

 三好がピンク色のもこもこに声を掛けると、パッと笑顔を見せて物凄い勢いで突進してきた。周りから見ると『ゴスッ』や『ドスッ』といったSEが付きそうなタックルに近いものであったが、三好はしっかりと受け止めた。が、正直今のは三好も鍛えているとはいえ痛かった。
 180cmの長身である明石を受け止められる三好は、明石よりも背が高く、筋肉も程よく付いていてまさに理想的な男前だ、と明石の親衛隊と三好の親衛隊の隊長が明石に熱弁していたこともある。その真意に明石が気づくことはなかったのだが。

「真冬? とりあえず一旦離れろ」

 三好の胸元に顔を埋めている明石は、三好にとって非常に可愛らしい。その姿を晒す訳にはいかない、と移動する為に明石を離そうとするが、さらにぎゅっと抱きつかれてしまった。

「嫌だ、俺から離れんな」

 そんな三好への殺し文句を投下し、ぎゅうぎゅうと抱きついて離れない明石に、三好は理性を総動員させる。親衛隊は皆顔を赤らめ、二人に温かい眼差しを向けている。
 ぎゅうぎゅうと抱きついていた明石に、突然浮遊感が襲ってきた。どうやら三好に抱っこされているらしいと気づくと同時に、この方が暖かくて良い、と文句は言わずに大人しくしている。

「真冬……もしかして、その書類出しに行くのか?」
「あぁ、どうしても持って行かないといけなかったから。でも寒くて困ってたんだ」
「…………そうか」

 返事までの変な間は何だったのか明石は気になったが、眠くなってきたので三好に任せて目を閉じた。
 すやすやと眠る明石に、三好と親衛隊は何とも言えない空気になっていた。暖を取られていただけでも、三好はこれだけ明石に懐かれているのだからと自らを奮い立たせる。
 数日後、三好が明石の部屋に炬燵を設置し、その日は二人で一緒に温まった。
                         


*****



「ハル、ハル」
「どうした? 真冬」
「呼んだだけだ」
「そうか」

 食堂にて繰り広げられるやり取りに、見ているこっちが恥ずかしいと生徒達は一心不乱に昼食を口へ運ぶ。明石真冬と三好春慶、この二人の関係は恋人同士ではない。
 三好は確実に明石のことを恋愛の意味で好いている。明石の為に尽くし、世話を焼いている。
 ところが、明石は三好のことを同じ意味で好いているのかといえば、よく分からないのだ。三好に懐いているのはよく分かるのだが、それは単に三好が温かいから居心地がよく、傍にいるのではと思われる。
 しかし、どう見ても二人は付き合っているようにしか見えない。
――そこまでイチャイチャするなら、さっさと告白して付き合えよお前ら。
 そんなことを思われているとは知らずに、明石は今日もお気に入りのピンク色のもこもこスタイルで三好にべったりだ。三好の足の間に座り、背後から三好に覆い被さるように抱き締められている。





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